「この映画の実力はまだこんなもんじゃない」エアベンダー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の実力はまだこんなもんじゃない
惜しい。あまりにも惜しい!
この映画は明らかに舌っ足らずだ。展開があまりに性急過ぎる。おまけに何もかもナレーションで解説してしまう。
「シャマラン監督に撮れるのか」と危惧していたVFXやアクションシーンは全く不味くない。スローと長回しを駆使した流麗な戦闘シーンは、実に良い。
しかし、『火の国の威圧感が伝わらない』『主人公アンが人々の希望となる様が伝わらない』など、不満点の方が多く浮かぶ。
何より不満なのは、登場人物達が絆を深めていく過程の欠如だ。
アンを見つけた兄妹は、彼の運命を知る内に、「見つけた私達が守る責任がある」という単なる義理以上の感情を抱いていた筈だ。
実の息子を戦で亡くした火の国王の兄にとって、王子は単なる教え子では無かった筈だ。
己の運命を受け入れる水の国の王女の姿は、もっと悲壮で美しいものに成り得た筈だ。
それまで親しく接してくれていたカタルがアンの傍を離れ、友人としてではなく偉大な“アバター”として彼を崇めた時のアンの表情を思い出してほしい。
重圧と、そして孤独とで泣き出さんばかりのその表情。一度はその重みに耐え兼ね逃げ出した運命が、巡り巡って再び目の前に現れたその恐怖。
見事な表情なのだ。それまでの不満を全て覆すほどに、身震いするほどにエモーショナルなのだ。
だから大声で言いたい。勿体無い!!と。
アンと兄妹の絆がもっと描けていれば、アンの無邪気な子どもらしい一面がもっと描けていれば、それらの暖かな感情を容赦無く断ち切るこのシーンはとてつもなくエモーショナルになった筈なのに。
よもや本人が聞いている訳は無いが、シャマラン監督よ。
オチが弱いだの怪異の正体がショボいだの映画的ケレンばかりが批判されるあなただが、あなたの映画が素敵なのはそんな所じゃない。
あなたが一貫して描いてきたのは、人智を越えた困難や恐怖を、家族或いは家族を越えた絆が克服してゆく姿だったじゃないか。人を救うのは超人でも超科学でも無く、いつだって人々の絆の力だったじゃないか。その底抜けな優しさが僕は好きなのだ。
そのあなたが、人々の絆を描く過程を端折るとは……残念だ。あと30分長くても良いから、そこは削るべきじゃ無かった。
この物語が持つ力は、まだこんなもんじゃない。
シャマランが派手な映画を撮れる事は分かった。
後はいつものように丁寧にドラマを紡いでくれれば。
監督、続編頼みます。
<2010/7/24鑑賞>