「本作はボクシング映画じゃありません。ファミリードラマです。」ザ・ファイター さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
本作はボクシング映画じゃありません。ファミリードラマです。
大嫌い。でも愛してる。
厄介。でも切り捨てられない。
だって、家族だから。好きな人だから。
本作は、ボクシング映画ではありません。
ファミリードラマです。
実在のボクサーであるミッキー・ウォード(マーク・ウォールバーグ)と、その兄でやはりボクサー、ディッキー・エクランド(クリスチャン・ベイル)と、その大家族とその恋人の葛藤と再生の物語です。
ディッキーは「黄金のミドル」シュガー・レイからダウンを奪った男として、地元ではヒーローでした。しかし過去の栄光に縋り、現在はドラッグ中毒。トラブルばかり起こしています。結果的にディッキーが起こした事件でミッキーも巻き添えになり、警官に拳を砕かれることに。弟はそこで、はたと気付く。兄は本当にヒーローなのか?
丁度、恋人シャーリーン(エイミー・ダムズ)もできたりして。豪傑母(メリッサ・レオ)、シャーリーン、刑務所のデッキーの間で、ミッキーは激しく混乱していく。だって、みんなミッキーをコントロールしたがるから。もう豪傑母ちゃんと、大勢の姉たちの圧が凄いんです。
でも、兄と母と距離を置いたことで、勝てるようになるんです。シャーリーンは当然、ディッキーと母とは引き離そうとする。そしてミッキーは、世界タイトルマッチの切符を手に入れます。
ナイスタイミングでディッキー出所。ディッキーがトレーナーになると主張します。
けど、シャーリーンが許さない。兄か、恋人を選ばなくちゃいけない。けどミッキーは、兄を切り捨てられない。シャーリーンは別れると激怒!
ここで今までの映画なら、どちらかを選ぶってことになると思います。でもね、ミッキーは選ばないんです。兄も母も、恋人も、一緒にやっていきたい。だって選べません。大事な家族と、恋人ですから。ここがいい!誰かを犠牲にして、何かを成し遂げたって意味ないんです!
ここからが、ええ展開になります。
ディッキーは弟の為に、シャーリーンに頭を下げに行くんです。その説得の言葉が、また胸に響く!ディッキーが見せる、お兄ちゃんの顔に感動します。兄や姉は、こうでなくちゃいけない!だから私、火垂るの墓が嫌いなんです(すみません)。
そこに現れたミッキーに、ディッキーが聞きます。
「みんなシュガー・レイはダウンじゃなくてスリップだっていうけど、お前はどう思う?」
ミッキーは言います。
「そんなのはどっちでも関係ない。兄貴はシュガーレイ相手に12Rまで戦った。俺のヒーローだ」
ここでのディッキーがまたいい。
「(ヒーロー)だっただろ?」
そういってニヤリと笑って去って行く。ディッキーが、現在を受け入れた瞬間です。ヒーローの座を、弟に譲った瞬間です。この背中がまたいい。
大声で叫ばせてください。おにーちゃーん!
ラストのボクシングシーンが、ロッキーに比べるとなんちゃらかんちゃらって言われますが。しゃらくせえ!ラストのボクシングシーンなんか、どうでもいいんだよ。本作の見せ場は、ここだから!兄と弟の物語だから!家族の物語だから!
それにクリスチャン・ベイルが凄い。完璧なジャンキーになってます。歯を抜き、髪を抜く。それだけじゃない。視線の動かし方、体の揺らし方、本物です。そこにクリスチャン・ベイルっていう俳優はいなかった。
エンドロールで、本物の ディッキー・エクランド が登場します。ベイルがそっくりなのに、驚かされます。すげ。ベイルさん、すげ。
そして豪傑母のメリッサ・レオですが、 ベイルとは14歳違い。マーク・ウォールバーグとは11歳違いで母親役を演じています。すげ。貫禄すげ。