路上のソリスト : インタビュー
「プライドと偏見」「つぐない」で、明日の映画界を背負う逸材として脚光を浴びたイギリスの俊英ジョー・ライト監督が、ハリウッド・デビュー作品として選んだ「路上のソリスト」。ロサンゼルス・タイムズ紙のコラムを原作に、新聞記者とホームレスの友情を描いた本作について、映画評論家の清藤秀人氏が話を聞いた。本作のPRのために来日した原作者スティーブ・ロペス氏のインタビューとともにお届けする。(取材・文:清藤秀人)
ジョー・ライト監督 インタビュー
「スキッド・ロウよりむしろハリウッドの方が恐ろしい存在だよ」
──数多くのオファーの中から「路上のソリスト」をハリウッド・デビュー作に選んだ理由は何ですか?
「ロサンゼルスを自分の視点で捉えてみたかったんだよ。それにはネタ本があるんだ。子供の頃、両親が見せてくれた“グランドデザイン”という空撮写真集に載っていたロサンゼルスのハイウェイの俯瞰ショットが忘れられなくてね。いつかあのイメージを映像化したいと思っていたんだよ。同時に、その写真集に集められた写真は世界中の有名スポットを誰も見たことがないような角度から撮影したものばかりでね。それは、ある意味、映画の主人公であるナサニエルの視点、つまり、総合失調症患者独特のキュービズム(対象物を多角的に捉える描写法)的な物の見方に通じるものだと思ったんだよ」
──ハイウェイを走行中のスティーブがトンネルの側道でチェロを演奏するナサニエルを発見して急ブレーキを踏むシーンなんて、車社会のロサンゼルスでは見落としがちな視点ですよね。
「あのトンネルを選んだのには明確な理由があるんだ。企画が立ち上がった当初、僕の頭には“アバーブ&ビロー”、言い換えると“上と下の対比”というテーマ設定があって、それを端的に表現するのにあそこ程ぴったりくる場所はなかったんだ。なぜなら、ナサニエルがいるあのトンネルからカメラを上にパンさせると、そこにはスティーブたちが働く最新鋭のハイテクビル群がそびえ立っているんだから。下から上へのメタファーをモチーフとして映画に生かしたいという思いが、あのシーンには象徴されているんだよ」
──スティーブはナサニエルが住む全米最大のホームレス地区、スキッド・ロウを頻繁に訪れ、交流を重ねて行きます。実際にスキッド・ロウに足を踏み入れてみて、どんな印象を受けましたか?
「ショックだったよ。ビジネス街のすぐ隣で繁栄から置き去りにされた人々が暮らしているなんて。でも、路上生活者は決して他人に危害を加えたりしないし、それどころか、とても撮影に協力的で500人がエキストラとして参加してくれたんだよ。彼らがジェイミー・フォックスやロバート・ダウニー・Jr.たちと同じフレームに収まっている様子を見るのは、監督として至福の一時だったな」
──では、とりあえずハリウッド・デビューは成功だった?
「どうだろう? 自分にとってはスキッド・ロウよりむしろハリウッドの方が恐ろしい存在だよ。未だにカルチャーショックから立ち直ってないし(笑)」