「人間ドラマに軸足を移す第二部」レッドクリフ Part II 未来への最終決戦 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
人間ドラマに軸足を移す第二部
パートⅠに比べると映画の軸足は登場人物のドラマにあるような印象を受けた。とりわけ孫権の妹が敵陣に潜入して、蹴鞠の得意な男と友情を温めるところなど、気のいい中国の若者を絵にかいたようだ。物語の中心ではないのだが、この二人の場面が好きだ。
もちろん、本来の主な登場人物たちのドラマも盛りだくさんである。周瑜の奥方への欲望を募らせ、彼女に容貌の似た踊り子を寵愛する曹操。赤壁からの撤退を決めた劉備に対して珍しく反発をする関羽、張飛、そして趙雲。
しかしその人間性の変化をもっともよくとらえられているのはチャン・チェン演じる孫権であろう。パートⅠでも、多くの家臣団を抑えて曹操との対決を決意したシーンが印象的だったが、このパートⅡでも彼の人間味が多く描かれている。もしかすると、綺羅星のごとく参集した天才、英傑たちの中で、孫権一人が凡人であるがゆえの悩み、苦しみを味わっているのではないか。
疫病が広がる中で薬を煎じる火を自らの手で扇ぐしーん、敵陣から戻った妹を叱責するものの、その目的と成果を知るとその待遇を詫びるシーン。どちらのシーンも、彼が主君として必要なことが、一人の人間として必要なことと同じであることを知り、成長したことを物語る。この地味な役どころにチャン・チェンを起用したことへの納得がここで得られるというものだ。
惜しいのは小喬が曹操を訪ねてきたところか。赤壁攻略か長年追い求めた女か二者択一を迫られる曹操にはもっと逡巡して欲しかったし、これだけ美しいリン・チーリンがこのあとどのような辱めを受けるのかと、観客をもっとハラハラさせるだけの下世話さがあっても良かったと思う。
この作品とは直接関係ないが、今のメディアで禁忌とされることのうちセックスと暴力とではどちらが重いのかということを考えた。スクリーンには絶えず暴力、殺戮が描かれているが、性愛についての描写には年齢制限が設けられたり、間接的な描写、隠喩や換喩が用いられる。戦争や暴力ははっきりと見せるべきもので、性愛やそれへの欲望はその表現に配慮を要するというのが、現代のメディアなのである。