20世紀少年 第2章 最後の希望 : インタビュー
総製作費60億円の超大作「20世紀少年」3部作すべてのメガホンをとる日本一多忙な映画監督・堤幸彦が、「20世紀少年」生誕のきっかけになった場所、大阪・吹田の万博記念公園で、公開を間近に控えた「20世紀少年 第2章/最後の希望」の撮影の苦労を語ってくれた。(取材・文:編集部)
堤幸彦監督インタビュー
「一生に一度の大事になりましたよね」
──この万博の地でのイベントということで、感慨深いのではないですか?
「どうですか? この馬鹿馬鹿しさ(笑)。僕は撮影の時も来てないですから、中学の時に来て以来38年ぶりの万博公園ということになります。久しぶりに見ると、“太陽の塔”は意外とでかいですよね。ガウディに並び称される建造物かなって思います」
──第2章は撮り終えた映像を見て、手のつけられない怪物になってしまったとプレス資料に書いてましたが、自分の想像していた画を遙かに超えていたということでしょうか?
「ちょっと予想を超えてましたね。自分としてはもう少しタイトなサクサクと進む小品になると思っていたので、改めて全部つなげてみると全然違っていて、こりゃ化け物だなと。やっぱり何か大きなうねりがあるんですよね。でもそれは、僕の作品というよりは浦沢さんの『20世紀少年』の中の怪物がそこに横たわっているんです。予想外の見え方だなって思いましたよね、最初のラッシュを見たときは」
──たしか前回のインタビューでは、第2章では、観客を混乱させるとおっしゃってましたが、意図通りに作れましたか?
「正直にいうと、私が混乱しました(笑)。本当にひとつずつ向き合うのが必死だったんで、こんなこというとプロフェッショナルじゃないと思われるかもしれませんが、あまりにも量が膨大だと、全体が見えなくなる瞬間ってあるんですよね。でも膨大な情報量を整理すること自体を楽しむことがこの映画の立体的な見方だと思うので、大いに混乱していただきたいなと思いますね」
──今回のヒロイン、カンナ役に平愛梨さんを選んだ理由は?
「これは浦沢さん、長崎さん、プロデューサーの皆さんとも話したんですけど、まずファーストルックがそっくりっていうことですよね。彼女はオーディションのときにカンナに似せた格好をしてきたので、それにグッと来ましたが、似てるだけだったら他にもいます。だから、ルックスだけではない目を中心とする強い表情が映画版オリジナルのカンナには必要だったんです。この映画版カンナは強いだけではもちろん駄目で、むしろ弱い方が重要です。要するに強さと弱さが同居している人間でなくてはならないし、この先最終章にいたっては、さらにどん底に落ちて、そこから希望を手にしていく女性でなくてはならない。そして非常に細やかな表情を、出来れば無表情の中で表現する女性という意味で、ピッタリの顔をしているというのが決め手になりましたね」
──平さんには何か特別なレッスンはされたのですか?
「どうしても今の若い女性は声の出し方が下手だから、発声なんかはやりましたね。あとは、最近の通常のドラマとか映画ではあまり必要のない、大げさな動きとかが必要だったので、そういうことはレッスンしてもらいました。いまどき、森田健作さんみたいに涙を拭く奴なんていないんだけど、それをなんとなく、そういう風にみえるようにしないといけなかったんです(笑)」
──今回はオッチョ役の豊川さんを含め、多くの俳優陣が特殊メイクを施しています。
「豊川さんも楽しみながら、役作りや準備をされる方なんですけど、やっぱり一日中メイクをつけて演じるのって本当に大変で、ストレスがかなり溜まるんですよね。そんな中、豊川さんは色々な意味で頑張ってくれました。画的にはかなりカッコよくて大満足ですよ」
──特殊メイクがかなり大変だったということですが、誰のメイクが一番大変だったのですか?
「それは正直にいいますけど、“ともだち”です。あれは難しかった。漫画ではマスクをしてるから簡単そうに見えるんだけど、実際はそうじゃないです。正面から撮っている“ともだち”と、後ろから撮っている“ともだち”では、実はマスクの縛り方が違っていて、前用と後ろ用で10コくらいマスクを作りましたね。中の人は相当苦しかったと思いますよ。誰が被っていたかは言えませんが(笑)」
──前回のインタビューでは、特に地域性はないとのことでしたが、今回は新宿が重要な場所になってましたね。
「やっぱり2015年の東京の街並みには苦慮しましたね。本当にちょろっとしか映らないですけど、新東京タワーも絶対あるだろとか、中心地ってどっちになってるんだろうとか、その辺はCG部隊と色々相談しながら作っていきました。あと、何が空を飛んでいるんだとかね。これは最終章になるとまた変わってくるんで、また楽しんでもらいたいですね」
──アルタ前広場の近くから新宿駅の向こう側(西新宿)がきれいな空き地になっていたカットは、インパクトがありました。
「高層ビル街がないと地方の駅になってしまうんですよ(笑)。あれはまごうことなき新宿駅なんですけど、西口を空き地にするだけで、すごい寂しい駅に見えましたね。あれは自分でもビックリしました。やっぱり何処かで一発みんながハッキリとわかる、少なくとも東京の人はわかってくれる画を撮りたかったんですよね」
──やはり監督が、あのアングルを選んだのですか?
「自分で新宿を歩いて決めましたね。あそこは新宿東口のヨドバシカメラの前なんです」
──第1章、第2章を完成させて、現在は最終章の編集をしているそうですが、ここまでの満足度は?
「まず第1章に相当な数のお客さんが来たということが、かなりプレッシャーですよね。やっぱり『第2章は見劣りする』とか言われたくないし、『最終章を見たい』って言ってもらいたいですからね。それと同時に、最終章は編集すると通しで4時間あるんです。さすがに休憩を入れるわけにもいかないし、あんまり長い映画にするのもどうかという声も多々ありつつ、非常に悩むところで、達成感とか満足度とかそういったものからは最も遠いところにいて、あと半年以上きちんと向き合わないと、抜け出せないんです(笑)。まあ、一生に一度の大事になりましたよね。多分こういうチャンスはないだろうし、こんなに大勢の俳優さんといっぺんに向き合うこともないでしょう。ましてや一日中CGのことを考えているなんてこともないだろうし。いい経験ですよ」
──それでは、最終章に向けて抱負を。
「最終章はとんでもないですよ。第2章も本当にとんでもない化け物だと思いましたけど(笑)。最終章は凄いんだけど、腑に落ちる。脚本に関わっている浦沢さん、長崎さんが、原作とは違うメッセージを立体的に伝えようとしているんだなっていうのを感じますよね。それは、“ともだち”が誰だっていうことも含めて。とても見応えがあると思うので、期待してください!」
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