「タランティーノ映画の独特な緊張は何度味わっても良い。」イングロリアス・バスターズ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
タランティーノ映画の独特な緊張は何度味わっても良い。
◯作品全体
『レザボア・ドッグス』から続く、タランティーノ監督の会話劇と一瞬のアクション。本作でも健在で、独特な緊張感は何度味わっても飽きない。
地下のバーでナチス将校がたむろする中密会するシーンは、本当に凄かった。ナチスを殺すことに関しては群を抜くスティーグリッツ軍曹は劇場での戦いなんかでも見せ場がありそうなくらいキャラが立ってるのに、一瞬の銃撃戦であっという間に殺されてしまう。他の作品であれば見せ場の一つでも作りそうだし、殺されてしまうカットを丁寧に挿れそうなものだが、タランティーノ監督は他のメンツの一人として扱い、銃撃戦の流れであっさり作品から降壇させてしまう。次のカットには誰が生き、誰が死んでいるか想像もつかない緊張感が本当に面白い。
スパイの女優もバーの銃撃戦で生き残らせるのであればレイン中尉との恋仲への発展だったり、ヒロインとしての役回りを与えられそうなものだが、劇場で惨殺されてしまう展開もさすがだった。彼女はあくまでもバーでの失敗を償うために生き残っており、大義の前にしてはヒロインもなにも関係がない。その容赦ない判断ができる映画監督は、そうそういない。
劇場支配人・ドレフュスもそうだ。旦那と幸せな未来を送っても良いはずなのに、彼女の存在理由をナチスへの復讐だけだ。だから、ツォラーを「ナチス」ではなく一瞬でも「人の心を持った人間」として見てしまった気の緩みをタランティーノは許さない。よくある戦争映画だと「敵国は悪だが、そこに住む人間には心がある」というシークエンスがあったりするけれど、そういう順当な道を歩まないところに、タランティーノ映画の面白さがあると思う。
◯カメラワークとか
・見せないかっこよさというか、見せないことで独特な存在感が出るみたいなカットが印象的だった。「ユダヤの熊」が姿を現すまでのカツーンカツーンっていうバットの音と暗闇とか、撃ち合いが終わったあとに降りてくるレインのシーンとか。ちょっとギャグっぽくもあるし、緊張感もある。ただシリアスなだけじゃない雰囲気作りがすごい。
◯その他
・ぼんやりとした会話が続くシーンの使い方が本当に上手だと思う。うわべっ面の会話の用に見えて探り合いが進行していたり、実は良いやつなのか?と数ミリ思い始めたタイミングで悪の本性をむき出しにしたり。作品を見ているこちらに隙間を作らせるのが巧いというか。
・ラストはもっと爽快感あっても良かったかなあと思ってしまった。ヒトラーも撃ち殺してるし、もっとド派手な感じでも全然飲み込め気がする。
・『ジャンゴ』を先に見てしまったからクリストフ・ヴァルツがそこまで悪いやつに見えなかった。
・スティーグリッツ軍曹を紹介するシーン、吹替版ではナレーションが小林清志さんで最高だった。急にカッコいい渋い声が聞こえてきてびっくり。