「バットに込められた思い」イングロリアス・バスターズ いおりさんの映画レビュー(感想・評価)
バットに込められた思い
通常の映画は見たいヤツが映画館に足を運ぶ。
しかし、タランティーノ作品は
映画が観客を選ぶところがあると思っている。
暴力的で悪趣味なユーモアはクセの塊、
苦手な人はとことん苦手だろう。
“途中まで見て面白くなかったらお金は返します”
この今までに無い試みは、言い方を変えると
「面白いと思ったヤツだけ見てくれればいいよ!」
そういった作品に対する唯我独尊な自信を感じる。
物語は二つの話が同時進行し交錯する。
ナチスの「ユダヤハンター」ランダ大佐に家族を殺され
復讐を誓う映画館の支配人ショシャナ。
自らの映画館でのナチスプレミア上映会で、
ヒトラーやゲッペルスを含むナチスの殲滅を狙う。
もう一方は、アルド・レイン中尉率いる
ナチス殺戮専門秘密集団バスターズ。
インディアン・アパッチの習慣になぞらえ、
ナチスの頭の皮を集めろ!とナチスをとことんいじめ倒す。
彼らも同じナチ殲滅のためプレミア上映会に忍び込む。
彼らの運命はいかに・・・というストーリーだ。
その作りは相変わらずというか、
初期の「レザボア・ドッグス」に戻ったような芳香を持っていた。
相変わらずのタランティーノ作品の特徴が色濃く出る。
■原則BGMによる雰囲気づくりは最低限、
一見意味のないやりとりで芝居のように会話を転がす。
その数分のコッテリした演技は饒舌で、
どんなキャラクターなのかを傷口に染みるようにわかりやすく説明する。
冒頭のランダ大佐の尋問は典型的だ。
じわじわと核心へ迫っていく無駄の無い言葉は、
彼がどんなに知性的で野心的で残忍でいやらしいかを教えてくれる。
カンヌ映画祭で主演賞受賞のクリストフ・ヴァルツ、
今年見た映画の人物で 「上司にしたくない人物No.1」 だ。
■必ず数人融通の効かない分からず屋というか、
柔軟性ないかっちりした性格のクレージーが登場する。
恐ろしいくらいおかしな方向に向いているのに、
微塵もブレることない一貫性は気持ちよささえ感じさせる。
この典型は、ピット扮するレイン中尉だ。
死を恐れず、恐怖を感じず、情けなど全くかけない。
ただナチス殺戮のためにユダヤのために邁進する。
今までの史実とはまるで逆のユダヤによるナチスいじめ。
彼らの行為は美化されること無く蛮行として描かれる。
スタイリッシュでは有れど、
けっして彼らの暴力を正当化しないところがマトモだと思う。
■構図に凝った画はスタイリッシュでさらに磨きがかかったように美しい。
そんな映像表現にはインパクト溢れる中毒性がある。
気になるということは感性を刺激されたということであり、
眠ってた脳に十分すぎる威嚇射撃を食らわせる。
今回は女性二人の最期が特に印象的だ。
苦悶に倒れるダイアン・クルーガー扮するブリジット。
こんな顔を見せていいのだろうかと心配になるほどの熱演。
またファンデーションをアパッチ・メイク風に乗せるシーン
デヴィット・ボウイの「キャット・ピープル」の音楽との競演がいい。
♪ Putting out fire with gasoline ~♪ という歌詞が、
“ガソリンで(ナチスという)火を消せ!”を暗示し実にユニークだ。
さらに、赤いドレスに身を包み凶弾に倒れる様も美しさが際立つ。
このメラニー・ロランという女優にはすっかり魅せられてしまった。
実際にユダヤ系の彼女の祖父も迫害されたそうだ。
終わって驚いたが2時間半もの長編、全く時間を感じさせない緩みのなさ、
実に見ごたえのある作品だった。
出展忘れてしまったのだが、
「ユダヤの熊」ことイーライ・ロス扮するドノウィッツのバットには
何か文字がたくさん書かれているそうだ。
なんでも戦地に赴く彼にユダヤの敵を取って貰おうと、
ユダヤの人々がその思いをバットに寄せ書きしたという設定らしい。
バスターズでも特に印象的な彼のそんな背景を聞くと、
あの一振り一振りの意味に奥深さを感じてしまった。
この適度に毒を含ませた悪趣味な映画は非常に見ごたえあった。
しかし、その隣で複雑な顔をする彼女には刺激が強すぎたようだ。
相手を選ぶが、ハマればとことん見ごたえがある。
やはり、オレはこういうギリギリのブラック・ユーモアな刺激に弱い。
しかし、最後までマイク・マイヤーズに気づかなかったよ 2500円