ハート・ロッカー : インタビュー
キャスリン・ビグロー監督インタビュー その2
──俗にいう、シネマティック・トリートメント(映画的な処理方法)ですが、ドキュメンタリーではないから、当然映画として見やすく、分かりやすく材料を料理する訳ですよね。この映画の場合は真実と映画的フィクションのバランスはどうしましたか?
「爆弾処理に関わっている兵士の命に関わることだから『極秘扱い』の部分があって、その部分は私たちも立ち入ることができないけど、マークの体験レポートは素晴らしいものだったわ。彼の現場体験を基にした情報がベースになっていて、登場人物はマークが出会った複数のEODテクニシャンを混ぜ合わせて作ったものなの。
技術的な面では軍の何人かのEODテクニシャンに会って話を聞き、テクニシャンの爆弾の扱い方や技術はできるだけ本物に近く再現したし、あの重さが80ポンド(約36.3キロ)もする爆弾処理用のユニフォームも当然本物よね。正確さには細心の注意を払い、真実を出来るだけ伝えようという態度で作ったことは確かよ。現場にアドバイザーとして来てもらっていたEODテクニシャンに細かくチェックしてもらったわ。ただしこれはドキュメンタリーではない。一瞬一瞬に命を賭けて仕事をしている兵士の姿を、現場で感じる緊張感を匂わせながら描きたかったのよ」
──あまり知られてない俳優たちをキャスティングした理由は?
「極端な例を挙げて説明すると、トム・クルーズが主演だったら、彼の役は英雄的な活躍をして死なない場合の方が多いし、いずれ死ぬことになっていたとしても、映画の最後まで死なないことが見えている。それではこの映画で私が見せたい『いつ命が奪われるか分からない極限の状態で仕事するEODテクニシャンのストーリー』が成り立たない。爆弾処理に向かう一瞬一瞬に何が起こるか分からない、あのユニフォームに身をゆだねていつ爆発するか分からない爆弾に向かって歩くことをテクニシャンたちの間では“Lonely Walk Toward…(…に向かう孤独な歩き)”と言われているの。彼らが受け入れている計り知れないリスク。次の瞬間に何が起こるか分からないのが戦争でもある訳だし、常に何かが起こるサプライズがこの映画の流れでもあるから」
──レイフ・ファインズ、ガイ・ピアースがカメオ出演していますが、地味なガイ・ピアースは背景の中に消えることができても、レイフ・ファインズの強烈な個性がこの映画の流れを変えてしまう危険はありませんでしたか?
「大いにあったわね。でも彼らがちょっと登場することで、『アッ』とか『エッ』といった小さなサプライズが、見えている流れを壊す役目をしている。あるシーンのなかで建物の3階にいる男が携帯を持って立っているのが見えて、本当に話しているのか、爆弾を仕掛けているのか、どっちなのか分からない緊張感を出すのと同じような効果があるの。レイフが出てくるシーンを他と同じようにリアリスティックにすればバランスは崩れないと思っていたから」
──ヨルダンで撮影したそうですが、中近東は熱と砂嵐で有名ですよね。
「それが理由でデジタルカメラを使わなかったの。デジタルカメラは熱に弱いから。スーパー16を使ったんだけど、朝から晩まで悩まされる砂嵐から上手くフィルムを守ることができたらしくて一カ所それも端の方に小さなスクラッチがあっただけだったの。大変な撮影だったけど、すごくラッキーだと感謝したこともたくさんあったわ」