インスタント沼 : インタビュー
個性的なキャラクターと小ネタで毎回独特の世界観を作り上げている三木聡監督の新作「インスタント沼」は、タイトルからはまったく内容が読めない謎と笑いのエンターテインメント・ムービー。リハーサル風景、セット作り、ロケでのエピソードにいたるまで、かなりこだわったという監督が、撮影の裏側を明かしてくれた。(取材・文:編集部)
三木聡監督インタビュー
「沼作りは相当大変。全然“インスタント”ではなかった(笑)」
――監督はいつも入念なリハーサルを行って世界観を作り上げるそうですが、今回は麻生さんをはじめとするキャストにどんな演出をしたのですか?
「そんなに計画があったわけではないんですが、“意味のない高揚感”というものがテーマにあったので、麻生さん演じるハナメを通じてそれが伝わるようにと思っていました。僕と麻生さんは『時効警察』でご一緒させてもらったので、彼女がリハーサルの現場の中心に立つようなことが多かったですね。加瀬さんや風間さんは初めてだったので、彼らは麻生さんと僕が取るコミュニケーションを参考にするというか、探るような部分があったと思います。スタジオで延々リハーサルをやっていたのですが、加瀬さんは麻生さんと僕のやりとりを見ながら演じる上での手がかりにしていました。
スタジオでのリハーサルよりも、ふせ(えり)さんと麻生さんが自転車で並走するシーンなどのロケの方が大変でした。あのシーンのリハーサルは何十回も入念にやっています。というのも、道を封鎖してワンカットで撮らなければいけなかったんです。そういった物理的なファクターは大変だったし、調整にも時間がかかりました」
――「転々」を思い起こさせるシーンですよね。
「あのときは歩いていましたが、今回は自転車に乗っての演技ですから、気を取られると転んでしまいますからね。あの段取りは大変でした」
――本作には骨董品など怪しげな物がたくさん登場します。中でも“折れクギ”はオーディションで決めたそうですね(笑)。どんな経緯であの1本になったのですか?
「京都の撮影所にあった3000本ぐらいのクギを集めたんですが、溝口健二監督や黒澤明監督の作品で使われたクギかもしれない訳ですよね(笑)。とにかく撮影所の方が協力的で、“インスタント沼BOX”を作ってクギを見つけたらそこに入れてくれたんです。それを美術部に送ってもらい選定していったのですが、意外に良い形に錆びているものがないんです。錆びすぎているとボロボロで何なのか分からないし、逆に銀色が残っていてもダメ。錆び具合と曲がり具合がちょうどいいものを求めて、セレクトにセレクトを重ねた結果、最終的にコレだろう!とほとんどのスタッフが納得したものに決めました」
――骨董屋“電球商会”がとてもユニークですが、数ある怪しげな骨董品の中でお気に入りのものはありますか?
「店の入り口に“子どもプレゼント”と描いてある垂れ幕ですね。ミルクの子ども用プレゼントか何かなんですが、子どもをプレゼントするという意味としか思えないですよね(笑)」
――その“子どもプレゼント”はどこから調達したんですか?
「ジャンルの違う何軒かの骨董屋から美術部が探してきたんです。骨董屋の中にもミッドセンチュリー系が強い店もあれば、シャビーシックなものを集めている店もありますから」
――電球商会のセットが完成するまでにどれぐらい時間がかかったのですか?
「ものすごい時間をかけています。しかも、借り物だから撮影が終わったら店ごとに区分けして返さなければいけなかったので、その作業も大変でした。とにかく、内装をプランニングしてから1カ月半ぐらい費やしているはずです。また、それぞれがちゃんと値のついた大事なもので、絶対に壊すわけにはいかなかったので、撮影が近づいてから搬入するようにしました。
準備期間1カ月半のうちの最後の10日間で取り掛かったんですけど、もうその頃は店の近くに住んでずっと作業していたので、近所の方々とも仲良くなりました。地元のおばさんが『これも飾ってよ』と言って家の家宝を持ってくるんですけど、壊したらまずいので使えないですよね。中には撮影で使ったものもありますが、結局画面には映りませんでした(笑)」
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