劇場公開日 2008年10月11日

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その土曜日、7時58分 : 映画評論・批評

2008年10月7日更新

2008年10月11日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

運命に抗う男たちの哀しみを描いたルメットの新たな代表作

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冒頭から見てはいけないものを見てしまったような気分になる。そして、その気分は映画が終わるまでつきまとう。「十二人の怒れる男」「狼たちの午後」「ネットワーク」など、多くの傑作を手掛けてきた84歳の名匠シドニー・ルメットによる新作は、ニューヨーク郊外で起きた強盗事件をきっかけに、一つの家庭が崩壊するまでの一部始終を描いた現代の悲劇である。

主人公は会社の金を横領して、麻薬漬けの日々を送る会計士の兄アンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と、娘の養育費を払えずに離婚した妻から「ルーザー(負け犬)」呼ばわりされている弟のハンク(イーサン・ホーク)。ともに経済的に切迫している2人は、人生を立て直すため、子供の頃からよく知っているという理由から両親(アルバート・フィニー、ローズマリー・ハリス)が営む小さな宝石店を襲う。だが、世の中そう甘くない。強盗は失敗に終わり、母親も失ってしまう……。

アル・パチーノが銀行内を所狭しと暴れ回った「狼たちの午後」と同様に、ルメットは本作でも破滅に向かって突っ走る男たちの焦燥をじりじりとあぶり出す。やがて、その焦燥は父親をも巻き込み、物語は最悪の方向へとなだれ込んでいく。もがけばもがくほどドツボに嵌まっていく2人を、ホフマンとホークは自らの脆さ、醜さを120%さらけ出し、みごとに体現。運命に抗う男の哀しみを醸し出している。「評決」(82)以降、長い間精彩を欠いていたルメットだったが、ここにきて新たな代表作を作り上げた。

(編集部)

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