「ジョニー・デップは作品に恵まれていない・・・」パブリック・エネミーズ jack0001さんの映画レビュー(感想・評価)
ジョニー・デップは作品に恵まれていない・・・
今や引く手あまたな俳優ジョニー・デップ;Johnny Deppを起用し、伝説の銀行強盗、ジョン・デリンジャーを描いた話題作。
監督がマイケル・マン;Michael Mannと聞いて、このタッグを見逃してなるものか!という気負いだった。
かつて「ヒート」や「マイアミ・バイス」などのクライム・アクション系でやりとおした一貫するクールさとタフな映像。
何よりもそんな点を期待した。
確かにハンディ・カメラを随所に扱っているようで、その微妙なブレ具合が、シーンで活かされている。
刑務所からの脱獄シーンで始まるオープニングなどは、非常にそのブレ方が緊迫感を煽るものだった。
そのうち銃撃戦が始まり、劇場を所狭しと炸裂音が飛び交う・・・しかし銃撃戦のシーンが、この映画の半分近くを占めていたような印象だった。
とにかく最初から最後まで、銃撃音ばかりが残ってしまった感がある・・・
日本では馴染みの薄いダーティ・ヒーローのデリンジャーという人物像が、あまりに希薄な感じだった。
何がどうしてこの男をヒーローに祭り上げたのか?社会的背景は?
一番盛り上がりそうな特長が、やや排除され気味に見える。
よくよく調べると、この銀行強盗についての詳細は意外と判明していて、その経歴を読んでみるだけでかなりなサブストーリーが期待できたはずだ。
なぜ犯罪者に成り下がったのか?その幼少期から始めて、思春期、青年期といった叙情的ヒューマンドラマに仕立て上げるべきだったかもしれない。
むしろそうすることで、1930年代を包括出来る題材だったように思えた。
強いて言えば、やはりジョニー・デップその人である。
何気ない動作や、目の動き、あの表情は、演技をしているとは思えない程に徹底している。
大袈裟なことは一切しないのにもかかわらず、写真でしか見たことのない実在のデリンジャー像が浮かんでくる。
ジャック・スパロウでは、かなり遊びまくったキャラ作りで人気者になったが、デリンジャーは決めたことを貫く一途な男。
それを変にタフネスさで強調させないあたりが、この人の演技力だろう。
何かが宿っているとしか思えない。
それだけに、デリンジャーが社会の敵NO.1と称されつつ大衆のヒーローだったという証明が欲しかった。
パブリックというタイトルがあるだけに、その大衆ヒーローぶりを醸し出すエピソードや情報が不足していた点は、少し残念だった。
それに、デリンジャーの敵役として登場するFBI捜査官メルヴィン役のクリスチャン・ベイル;Christian Bale、彼のクールないでたちは不思議な空気感を持っていた。
無表情で何を考えているのか?いまひとつ分かりにくい立ち位置にいながら腕の立つ男・・・いかにも公務員のアッパークラスという雰囲気だった。
かつてスピルバーグの「太陽の帝国」で子役だったこの人も、今やタフガイを演じるような俳優である。
デリンジャーが愛した女、ビリー・フレシェットはマリオン・コティヤール;Marion Cotillardが扮している。
どうしても彼女の場合、エディット・ピアフを演じた時の怪演ぶりが板に付いていて、やはりフランス女性というイメージだ。
「エディット・ピアフ ~愛の讃歌~」程の鬼気迫るものは無いにせよ、1930年代の古風な雰囲気とマッチしている。
なので、この映画、とてもキャストに恵まれた環境であったにもかかわらず、ストーリー性の希薄さが露呈していたような印象だ。
もしかすると長編作でも良かったのではないだろうか?
ジョン・デリンジャーを多角的に分析して、出し惜しみない演出が必要だった。
生い立ちからなれの果てまでをリアルに描くという大作だったら、まず満点だったはずだ。
それとは反し、脚本、とくにデリンジャーとビリーのカップルが交わす会話がウィットに富んでいて、当人が洒落者だった香りが漂う。
「人はここまで生きて来た経過を気にするが、大事なのはこれからどこへ向うかだ!」
「俺の好きなものは、野球、映画、高級服、速い車・・・そして君、他に何が知りたい?」
男が一度は使ってみたいような台詞だ。
何となくここの部分にだけ、マイケル・マンが男の美学を凝縮したかのようにも思える。
皮肉なものである。