ホビット 思いがけない冒険 : インタビュー
誰にも負けていないピーター・ジャクソン監督の原作へのリスペクトと愛
J・R・R・トールキンが創造した世界をスクリーン上に現出させ、ファンタジー映画のみならず、映画史そのものをも変えてしまったピーター・ジャクソン監督が、その「ロード・オブ・ザ・リング」(以下「LOTR」)トリロジーの60年前の冒険を描く「ホビットの冒険」にチャレンジ。その第1部「ホビット 思いがけない冒険」が、いよいよ12月14日に公開される。(取材・文/渡辺麻紀)
「最初はギレルモ(・デル・トロ)に監督を任せるつもりでいた。でも、彼がスケジュールの都合で降りざるをえなくなり、後任を考えていたとき、僕自身が監督をやりたくなってしまったんだ(笑)。他人に監督を任せようと考えたのは、僕だと『LOTR』と同じトーンになるからだったのだけれど、両者とも同じ中つ国を舞台にした物語。同じであってもいいんじゃないかと思うようになったのさ」
「ホビットの冒険」はトールキンが子ども向けに書いたファンタジー。大人向けの「指輪物語」とは大きな違いがあるのだが、ジャクソンは「僕の“ホビット”は『指輪物語』と同じ大人向けだ」と言い切る。
「でも、だからといって最初から『LOTR』のようにシリアスかというと、そんなことはない。何といってもこちらには13人ものユニークで子どもっぽいドワーフが登場するんだ。たとえ大人っぽくしたとはいえ、いままでになく喜劇的要素が多いと思う」
「LOTR」の“旅の仲間”はホビットや人間、エルフやドワーフ、さまざまな種族合わせて9人だったが、本作ではホビットのビルボに13人のドワーフ、そして魔法使いのガンダルフと15人もの大所帯。彼らが一緒に行動する姿を思い浮かべるだけでもかなりユーモラスだ。
「13人を描き分けるのは、もっとも大変な作業のひとつだった。最終的に僕たちが目指したのは、13人の個性が調和して“ドワーフ”という種族を表現すること。上手く行ったと自負している」
だが、登場するのはその15人だけではない。懐かしいフロド(イライジャ・ウッド)やガラドリエル(ケイト・ブランシェット)等、「LOTR」のメンバーも出演している。原作には出ていないにもかかわらずだ。
「今回、僕たちには『ホビットの冒険』を映画化することと、もうひとつ目的があった。トールキンが創造した世界、ホビットの冒険のみならず、彼らの暮らす世界をも構築することだった。だから原作だけじゃなく『指輪物語』やその『追補編』等、あらゆる文献を参考にした。その文献にはフロドやガラドリエルも登場するんだよ」
2部作で出発した本シリーズが、最終的にはトリロジーとなった理由もここにある。2作では収めきれなかったのだ。
「僕たちの解釈も加えたしね。でも、違和感はないという確信はある。なぜなら原作へのリスペクトと愛情なら誰にも負けてないからだよ」