ダイアリー・オブ・ザ・デッド : 映画評論・批評
2008年11月11日更新
2008年11月15日より池袋シネマサンシャイン、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
現実世界にもネット上にも溢れかえる“死”の記録、その衝撃と絶望!
前作「ランド・オブ・ザ・デッド」で久々の復活を遂げたジョージ・A・ロメロだが、次はフェイク・ドキュメンタリー形式でゾンビを撮るらしいと聞いたときは「えっ、ロメロにそんな器用なことができるのか?」と思ったものだ。ところが冒頭、TVクルーの取材カメラ目線による長回しの死者の甦りシーンを目のあたりにして不安は一掃。一人称視点ならではの“偶然、恐ろしいものを撮ってしまった”臨場感のこもったオープニングにぞくりと鳥肌が立つ。
街でのゾンビ発生のニュースを耳にした映画学科の学生たちが、キャンピング・カーに乗り込んで繰り広げる命懸けの撮影日記。いかなる非常事態にもカメラを手放さない主人公ジェイソンは、自前のゾンビの映像をYouTubeで公開していく。すると凄まじい数のアクセスが殺到し、我も我もと世界中から最新の衝撃動画がアップされてくる。甦る死者の数に負けじと、ネット上に溢れかえる“死”の記録。この野心作はゾンビ映画という古典的なジャンルに新たなエネルギーを注入したばかりか、鋭い知性と現代性に満ちている。
心肺蘇生用の電気ショックをゾンビにお見舞いするシーンなどスリル、ユーモア、皮肉も満載で、「ランド・オブ・ザ・デッド」とはひと桁違う低予算映画とは思えない充実の仕上がり。そして40年前から揺るぎないロメロの社会批評が、いっそうリアルに迫ってくるラストの絶望感の深さもただごとではない。“死の夜明け”から“世界の終わり”までを、わずか90分余りで描き上げた驚くべき一作であった。
(高橋諭治)