「男ってバカだね」サヨナライツカ Bulalaさんの映画レビュー(感想・評価)
男ってバカだね
豊と沓子の激しくも悲しい愛を描いた作品としては、浅薄な印象が否めませんが、沓子と光子、それぞれの愛の形を描いた物語として見ると、なかなか深いものがあります。
中山美穂より石田ゆり子の方がタイプだから、というわけではありませんが、自分的には光子の愛の形に一番心を打たれました。
自分自身が「愛すること」を大切に、静かで力強い光子の愛。その強さゆえに批判も多いようですが、ほとんどスポットが当たらない豊との25年間の生活を通じて、彼の「夢」を支えたのは他ならぬ光子の愛であったはず。
片や、情熱的で、行動的で、泣いたり、けなげさを見せたりと万華鏡のように表情を変えて、それはもう男心を揺さぶって止まない沓子の愛。密かに待ち続けた豊との再会を経て「愛されたこと」を胸に抱きながら、きっと幸せな最期を迎えたことでしょう。
二人の愛の深さに優劣はつけられませんが、ある意味、どちらも女の情念の深さを思い知らされます。
それに比べて、豊を通じて描かれているのは「不倫の恋に溺れる男」ですね。
いや、確かに男は沓子のような女に弱いし、同じ男として気持ちはよくわかる。わかるだけに、ちょっとイタかった。
空港で詩集と写真を豊に手渡した光子のメッセージは「愛は儚いものだから、私は求めません。あなたを愛したことで私は十分幸せだから」だったと思うのですが、果たして「老いらくの恋」状態の彼に伝わったかどうか・・「何だよ、知ってたのかよ・・やっべーな」位か?
また、再開シーンでの「NYでも君を探したんだぞ!」なんてセリフは、いい歳してあまりにも光子の存在に対し失礼じゃないですか!
ラストシーンでリフレインされる「愛してる」も、欲しいものを手に入れ損なった子供のちっぽけな感傷としか思えません。
飛行機を飛ばす夢が、いつか社長の椅子に置き換わり、それが成就すると、今度はかつて失ったものをもう一度手に入れようとする欲深い男(だからこそ社長にまでなれたんでしょうけどね)・・「好青年」というのも皮肉ですね。
そんなヒマがあったらしっかり光子の愛に報いなさい、と言いたい。
そうすれば息子も見直してくれますよ(笑)。
私もこの映画で光子に心打たれました。結婚前にバンコクまで行って沓子に決別させるシーンは圧巻、普通なら婚約相手に別の女性がいると分かったらオロオロするだけで、破断だなんだ騒ぐばかりでしょう。だから光子の強さ、逞しさは素晴らしいと感じました。それだけに「サヨナライツカ」で「白旗」はあげてほしくなかったですが。