「生きる幸せ、歌う幸せ」ヤング@ハート kerakutenさんの映画レビュー(感想・評価)
生きる幸せ、歌う幸せ
80歳の老人たちがロックをうたうという話。
ロック一筋の人たちが年老いても未だ衰えず・・・というストーリーかと思っていました。
ところがところが・・・・
1982年、マサチューセッツ州ノーザンプトンの高齢者住宅。
たまたま出会った地域のお年寄りのグループから結成されたコーラス隊ときいて驚きました。
けっしてうまくはない、普通のおじいちゃんおばあちゃんのグループなんですが、
冒頭の「Should I stay or should I go」で92歳のアイリーンがソロをとるところから、
もう魂をつかまれて、ノックアウトされてしまいました。
この迫力は、エネルギーはどこからくるのでしょう??
コーラス隊をひきいるのは、54歳のボブ・シルマン。
自分よりはるかに年上の団員に、けっこうきびしくしかし敬意をはらって指導します。
クラッシュ、デビッドボウイ、U2など、とても高齢者向けとはいえない選曲は彼によるものですが、(没にするものもありますが)ほとんどを、彼らは時間をかけて自分のものにしていきます。
もともとはクラシックやオペラ、サウンド・オブ・サイレンスなどが好きな彼らのほとんどは、はじめて聞くロックの大音量に顔をしかめ、耳をふさぐのですが、「こんな音楽はいやだ」とはいわずに、「なかなかいい歌詞じゃないか」と、とっても前向き。
ソロに指名されるのも、「上手いメンバー」というわけではなく、その歌を一番伝えられそうな人にボブはソロパートを託します。
時速200キロで車をとばし、ちゃっかり恋人もいる現役バリバリのスティーブ・マーチンのような元気なおじいちゃんもいる一方、
6度もがん治療をしたジョーや、脊髄に激痛の走るスタン、何回も死にかけてそのたびに牧師が呼ばれたというボブ・サルディーニ
うっ血性心不全で酸素ボンベが手放せないフレッドなど、
病気と闘いながら、それでも歌をあきらめないつわものたち。
もう彼らにとって歌は趣味の領域を超えて、「生きることそのもの」なのです!
歌を休んだらみんなに迷惑がかかる、とか、心配をかけたらいけない、というような日本人的発想ではなく、ただただ「歌いたい」のです。
自分のパートを誰かに奪われてたまるものか!と。
しかし他方で、もし自分が死ぬことがあっても、何事もなかったように、みんなは歌い続けてほしい・・・・
事実、わずか一週間の間に、ソロを歌うことを楽しみにしていた2人の仲間が亡くなります。
彼らは、仲間の死にふかく悲しみながらもコンサートを決行し、本番では練習のときより格段に素晴らしい歌を披露します。
それが先に逝った仲間にたいする敬意の払い方なんですね。
最高齢92歳のアイリーンは、
「(私が死んだら)七色の虹に腰をかけてあなたたちをみているわ」
そして、彼女がこの映画の完成後に亡くなったことをエンドロールで知るのですが、
このハッピーな映画が世界中でたくさんの人たちに感動を与えているのを、虹の上でニコニコながめているアイリーンを想像してうれしくなってしまいました。
死ぬことはお別れだけれど、だれにもやってくること。
それまでをどう生きるかが大事で、その直前まで全力でハッピーに生きていれば、自分もまわりも幸せになりことが伝わってきました。
人間年をとれば、いろいろ衰えるし、病気にもなります。
「守ってあげなければいけない、かよわい存在」ではありますが、
この映画の老人たちは、むしろ、勇敢で怖い物のない強い存在に思えました。
だから、彼らの歌う「I got you」も「Fix you」も本来の歌詞以上の意味合いが伝わって、それがあの迫力になるのでしょうか??
オープニングの「Should I go~」も、字幕は「別れるの?、別れないの?」でしたが、私には「この世におさらばするの?それともまだ生きているの?」のように聞こえました。
単館上映でなく、もっとたくさんの映画館でぜひやっていただきたい!
いろいろな年代の人にお勧めできる映画だと思います。