劇場公開日 2009年5月23日

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「父親の存在と偉大さに感動する家族愛映画」重力ピエロ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5父親の存在と偉大さに感動する家族愛映画

2009年6月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この作品には、二人の父親が登場する。なぜ二人も、なのかは、ネタバレに繋がってしまうので、理由は映画を見ていただいて理解してもらうしかないのだが、この二人の父親の存在感がこの作品の大きなポイントなのだ。

主人公の兄弟の実の父親は、とても朴訥とした素朴さが魅力的だ。ところが、家族の危機に立ち向かうときに見せる人間的な大きさは、観客さえも驚くくらいだ。
「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんて消せるんだよ」
このラストシーンでつぶやく言葉が、実の父親の大きさ、偉大さを自ら物語っている。どんなことがあっても、心を安らかに、楽しく生きていく、いや生きていきたいと願う、この実の父親の心の内は、観る者の心にも強く訴えかけるものがある(小日向文世の好演が光る)。

一方、実の父親でない、もうひとりの父親は、理性的に振る舞って見せてはいるが、それは許すことのできない犯罪を肯定化するもの。ただ、その反社会的な理性というものが、怪物のような大きさを感じる。ある意味、実の父親より存在感の大きさはこちらにあるように観えてくる(渡部篤郎の感情を抑えた演技がすばらしい!)。

この作品のキーは遺伝子なのだが、それはこの二人の父親の血を主人公の兄弟がどう考え、行動させるのかが、物語を左右する。遺伝子とは、家族の絆のひとつの証なのだが、それが逆に家族の危機を招く。しかしそれでも、実の父親は「私たちは最強の家族だ」と、力強く訴える。この最強の家族とは何を意味しているのか、それは観客ひとりひとりで感じ方が違うと思う。

家族愛映画という表現は、少し甘ったるい意味あいがあり、この作品の言い表す言葉としては当てはまらないかもしれない。しかし、父親の偉大さと人間の大きさが、家族を遺伝子以上にしっかり繋いでいる、愛情を感じるのだから、この作品は家族愛映画のなにものでもない。新しい、家族のあり方を描いた映画が日本に出現したことに、映画ファンのひとりとして拍手を送りたい。

こもねこ