「伊坂幸太郎の名作映画化」重力ピエロ bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
伊坂幸太郎の名作映画化
伊坂幸太郎の『ゴールデン・スランバー』と並ぶ、直木賞候補にも挙がった名作の映画化。原作は、既読だが、映画は観てなかったので、huluで鑑賞。もう13年の前の作品になるのだと、出演者の若さ、当時の携帯や服装からも伺えた。
内容的には、レイプ魔や放火犯等の凶悪犯罪を巡るサスペンス。しかし、根底には血の繋がらない兄弟、親子の家族愛をテーマとしたヒューマン・ドラマとしての温もりも感じられる。正に、劇中のセリフにもあった『最強の家族』の物語であると言える。
今から17年前に起きた連続レイプ魔の犯行によって、妊娠を余儀なくされた妻。それを承知で、自分達の子供として育てる決意をした夫。その噂は町中に知れ渡ったが、夫婦は、先に生んだ実の子ども・泉水と変わらずに、本当の弟・春として愛情を注いで育てた。
その17年後、彼らが住む仙台の街で放火事件が連続して起こる。泉水と春は、壁面に描かれたグラフィックアートが残された現場近くで、放火事件が発生していることに気づく。2人して放火犯を見つけようと、張り込みを続けていく。そこに嘗ての、レイプ犯も関わって、サスペンスの要素も深まっていく。
春役には、若き日の岡田将生が務めている。一見すると、天才肌で、悩みは無いように振舞いながらも、そこには自分の誕生に纏わる罪と現実をしっかりと受け止める中で、抑えようのない怒りと衝動に縛り付けられた青年を演じている。その透き通るような美しい顔立ちが、内に秘めたる春の想いが、逆に痛々しく映し出されている。そしてなんと、春の子供当時を、子役の北村匠海が演じていたのは、お宝の掘り出し映像だった。
また、春の兄役の加瀬亮も、随分若い。春に比べて秀でる所もなく、着実に一歩一歩進むタイプの、冴えない男を演じているが、春を想う兄弟愛をヒシヒシと感じる演技だ。そして、父役の小向さんはは、当時も今も全く変わらないというのも、逆にすごい(笑)。また、吉高由里子も脇役として、春のストーカーをする痛い女を演じている。
ラストについては、原作でも本作でもハッキリとは描かれてなく、読者や映画を観た人に委ねられているが、それぞれに春の行く末を、温かく見守りたい思いになるだろう。