「活き神ならいいのに。」イキガミ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
活き神ならいいのに。
この映画を観ながら考えていたことは、
「赤紙」世代の人々が観た場合どう思うんだろう?だった。
死が確約されるわけではないにしても、実際に受け取った
多くの若者が戦争でこの世を去った。そして親たちは、
「お国の為に」わが子を差し出し、万歳!万歳!と叫んだ。
この「逝き紙」という死亡予告証は国家繁栄の名の元に
作られた法律で「お国の為に」若者たちが死ぬことを指す。
有り得ない内容ながら設定はリアル、とにかく命の尊さを
国民に考えさせよう…とまで言い及ぶこの作品。
なるほどね…。今だから、作られそうな映画だと思った。
昨今の事件や自殺等のニュースを見ていても、
これほど命を軽視できる時代なのかと思うとウンザリする。
毎日毎日「殺人」「死亡」の文字が記事の中に躍り、
それが家族内の惨事である事例も、珍しくなくなってきた。
これは一体なんなんだと思う。たまに信じられなくなる。
子供が云々というけれど、明らかにその親世代もおかしい。
私たちはまだまともな世代だね。なんていっている自分が
最も事件を起こしている年代だったりすると唖然とする…。
そんな時代だから?観る価値があるというのも変だけど、
後味の悪さと恐怖、十二分に考えさせられた作品だった。
物語はイキガミ配達人の藤本(松田翔太)を語り部に進み、
3人の若者の死とそれぞれに24時間のエピソードを絡める。
芸達者な若者を揃えているので、それぞれに観応えは十分。
あと24時間で死にますよ…と言われたら、残りの時間を
どう生きるんだろうか…の不安や疑問を淡々と見せていく。
そうやって「死」を突き付けられて初めて、人生に希望を
見出し、さあこれから!となってゆくところが一番切ない…。
ギリギリの選択を迫られて初めて、生きる意味を見出した
若者を、あっけなく殺してしまうというこの制度の矛盾を
藤本同様、観客に考えさせることが目的なんだろうと思う。
でも命の重さは平等だというなら、引きこもりの佐野和真が
拳銃を奪うために起こした警官殺害はどうなんだろうか。
自暴自棄になった若者が起こす事件の顛末が曖昧すぎる。
24時間を全うできなかった彼への制裁がそれに値するのか。
陰鬱で重々しい内容の上に感動が被さるような展開の中で、
涙はまったく出なかった自分が一番揺さぶられたのが、
チンピラ兄役の山田孝之が妹を見送った後、病院の廊下で
「オレまだ死にたくねぇよぉ…」と膝を落とし嗚咽する姿だった。
死んだつもりで生きてみろ。なんて言葉が虚しい。
(戦後の平和な毎日の中で心を病む人が増えるのはなぜ?)