劇場公開日 2010年11月19日

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「【81.2】ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 映画レビュー」ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【81.2】ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 映画レビュー

2025年8月10日
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作品の完成度
本作は、シリーズ全体を一つの壮大な物語として捉えた上で、その終結に向けての重要な「つなぎ」としての役割を完璧に果たしている。最終章の膨大な情報量と物語の密度を単一の映画に収めることは不可能であり、二部構成という選択は必然的で、この判断が作品の完成度を格段に高めている。特にPART1は、ハリーたちが保護を失い、外部の脅威にさらされながら、内面的な葛藤や友情の危機に直面する過程を丁寧に描き出すことに成功している。
従来のシリーズが持つ魔法のきらめきやホグワーツの温かい雰囲気を意図的に排除し、代わりに冷たい現実と孤独、絶望を前面に押し出すことで、物語の終焉に向けた悲壮感を醸成。これは商業的な成功よりも、原作の精神を忠実に映像化することを優先した決断であり、その結果、シリーズ全体のトーンに深みを与えた。
しかし、その一方で、物語が分霊箱探しの旅に終始するため、アクションシーンの連続性やドラマティックな展開は抑えられている。観客によっては、物語の進行が遅く感じられる可能性も否めない。だが、この「静」の部分こそが本作の真骨頂。三人称視点から三人の視点へと切り替えることで、内面的な葛藤や疑念がより鮮明に描き出され、観客は彼らの苦悩を追体験する。
物語のクライマックスとなるドビーの死と、その後のハリーの行動は、単なる感情的な盛り上がりを超え、ハリーが真の指導者として立ち上がる覚悟を決める、物語上最も重要なターニングポイントとして機能。このような、登場人物の精神的成長を深く掘り下げることに成功した点で、本作は単なる「続編」ではなく、最終章を語る上で不可欠な序章としての高い完成度を誇る。
監督・演出・編集
監督はシリーズ後半を担ってきたデヴィッド・イェーツ。彼の演出は、登場人物の感情を巧みに捉えることに長けており、本作でもその手腕が存分に発揮されている。特に、三人だけの旅路において、言葉を交わさずとも伝わるキャラクターの心情や、閉塞感漂う自然の描写が秀逸だ。
編集のマーク・デイは、物語の緩急をつけながらも、不穏な空気を途切れることなく持続させることに成功。特に、分霊箱の影響でロンが精神的に追い詰められていくシーンや、「三人兄弟の物語」のアニメーションパートの挿入は、物語に奥行きと多様な視点をもたらす効果的な演出だった。
キャスティング・役者の演技
主演の3人は、長年のシリーズで培ったキャラクターへの深い理解と、個々の成長をスクリーン上で見事に体現している。
主演:ダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッター役)
シリーズを通して、ハリーの成長を演じ続けてきたダニエル・ラドクリフの演技は、本作で一つの頂点に達した。両親の墓の前で佇むシーンや、ドビーを失った悲しみを押し殺す表情など、言葉に頼らない内面的な演技が格段に深化。分霊箱の破壊に際して見せる怒りや決意は、もはや子供の英雄ではなく、運命に立ち向かう一人の青年として、観客に強い印象を残す。特に、孤独と重圧に苛まれながらも、ヴォルデモート打倒という使命を全うしようとする彼の覚悟は、その繊細な表情の変化からひしひしと伝わってくる。
助演:ルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)
ロンのキャラクターは、シリーズを通じてのコメディリリーフ的な役割から一転、本作では分霊箱の負の力に影響され、友情に亀裂を生じさせる重要な役どころを担う。ルパート・グリントは、その内面的な葛藤と嫉妬、そして後悔を見事に演じきった。特に、ハーマイオニーとの間の緊張感や、一人きりになってからの孤独感は、彼の表情や佇まいから深く感じられる。最終的にハリーと和解するシーンでの、彼の脆弱さと誠実さが混在する演技は、観客の共感を誘う。
助演:ヘレナ・ボナム=カーター(ベラトリックス・レストレンジ役)
狂気に満ちた死喰い人ベラトリックスを演じるヘレナ・ボナム=カーターは、登場する度に画面の空気を一変させる。彼女の演技は、単なる悪役の域を超え、純粋な悪意と享楽的な残虐さを体現。ドビーを殺害するシーンの無慈悲な笑みや、ハリーたちを執拗に追い詰める姿は、観客に恐怖を植え付ける。その特異なキャラクター造形と演技は、シリーズのダークファンタジーとしての側面を強調する上で不可欠な存在だ。
助演:アラン・リックマン(セブルス・スネイプ役)
シリーズ最後の最後でその真実が明かされるスネイプ役のアラン・リックマンは、本作では冒頭のシーンのみの出演。しかし、その短い登場時間でさえ、彼の存在感は圧倒的だ。ヴォルデモートの傍らで静かに佇む姿、そしてハリーの宿敵としての冷徹な眼差しは、観客の心に深い印象を残す。多くを語らずとも、その表情から読み取れる複雑な感情は、後の物語の真実を知る上での重要な伏線として機能する。
脚本・ストーリー
スティーヴ・クローヴスによる脚本は、原作の膨大な物語を忠実に抽出し、映画的な構成に再構築している。最終章を二部に分割したことで、原作の持つ物語の細部や登場人物の心理描写を省略することなく描くことが可能になった。特に、ハリーたちがホグワーツを離れ、魔法界の隅々を彷徨するロードムービー的な構成は、世界の広がりと同時に、彼らが置かれた絶望的な状況を視覚的に訴えかける。
映像・美術衣装
美術監督スチュアート・クレイグと衣装デザイナーのジェイニー・ティーマイムは、シリーズを通じて築き上げてきた世界観をさらに深化。特に、本作では従来の華やかな魔法世界から一転、退廃的で荒涼とした風景が中心となる。ハリーたちがキャンプ生活を送る自然の描写は、彼らの孤独を象徴し、マルフォイ邸や魔法省の描写は、ヴォルデモートの支配下にある世界の陰鬱さを表現。細部にまでこだわった美術と衣装は、物語のトーンを決定づける上で重要な役割を果たしている。
音楽
音楽は、シリーズ初参加となるアレクサンドル・デスプラが担当。これまでのジョン・ウィリアムズやニコラス・フーパーとは一線を画し、内省的で繊細なスコアを構築。特に、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人の旅を彩る、静かで美しい旋律は、彼らの孤独や不安を強調する。有名な「ヘドウィグのテーマ」もさりげなく挿入され、シリーズとの連続性を保ちつつも、独自の音楽世界を確立。アカデミー賞の音楽賞にノミネートされることはなかったものの、そのスコアは高い評価を得た。主題歌はなし。
アカデミー賞および主要な映画祭での評価
本作は、第83回アカデミー賞において美術監督賞と視覚効果賞にノミネート。このノミネートは、本作の美術・映像面での技術的な完成度の高さを証明する。特に、ハリーたちが旅をする様々なロケーションや、ファンタジーと現実が融合した独自の美術デザインは、映画界全体から高く評価された。

作品
監督 デビッド・イェーツ 113.5×0.715 81.2
編集
主演 ダニエル・ラドクリフB8×3
助演 ルパート・グリント B8
脚本・ストーリー デビッド・イェーツ B+7.5×7
撮影・映像 エドゥアルド・セラ S10
美術・衣装 美術
スチュアート・クレイグ
衣装
ジャイニー・テマイム S10
音楽 音楽
アレクサンドル・デプラ
メインテーマ
ジョン・ウィリアムズ A9

honey
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