劇場公開日 2008年4月12日

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パラノイドパーク : 映画評論・批評

2008年3月25日更新

2008年4月12日よりシネセゾン渋谷ほかにてロードショー

私たちが生きているのはこのような危険な場所なのだ

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舞台となるのはオレゴン州ポートランド。シアトルよりちょっと南、カナダまで車で5時間くらいの位置にある。したがって映画に映る町の風景は、冬でもないのにどこか寒々しく、土地の抱える憂鬱がダイレクトに伝わってくる。どんよりと空を覆う冷たい雲の下、人々は何を思って生きているのだろう?

ガス・バン・サントがこの町を拠点に映画作りを始めてからずいぶん時間がたつ。彼の作品にはいつも、この寒さが常に貼りついている。報われない人生を生きざるを得ない厳しさとともにある寒さと言ったらいいか。主人公である高校生たちの表情にも、あらかじめその厳しさを知らされて成長してきた者の陰りが刻印されていて、物語は町で起こった殺人事件の謎を巡って展開するのだが、彼らの陰りを見ていると、町中の人全員が犯人ではないかと思えてくる。

もちろん事件の秘密ははっきりと明かされるわけだが、その見事なまでのあっけなさもまた、彼らの抱える厳しさへと直結する。人はこのようにあっけなく死ぬ。高校生たちの若々しさとあっけない死が同居する。目の前の現実と未来への不安とが作り出す人間的な時間の流れを見事に切断する野生が否応なく人々の上に降りかかる、と言ったらいいか。私たちが生きているのはこのような危険な場所なのだ。映画はこうやって、忘れていた何かを思い出させてくれる。

樋口泰人

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