「小池怪談。」接吻 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
小池怪談。
名画座にて。
もうなんと言ったらいいのか…。すごい作品でした。
小池栄子の体当たり怪演技も見事なものでしたが、
昨今の猟奇的な事件を背景に考えると、
かなり観る者を震撼させる内容だったと思います。
怖い。哀しい。おぞましい。狂気。純粋。繊細。
そのすべての形容にあてはまる感覚。
でも総じて思ったことは、究極の愛というものに、
いかにも自分勝手で他を見下している怖さがあり、
自分に従わない人間を抹殺することも厭わない。
…それ、本当に愛でしょうか。
今作のヒロインは一見真面目で平凡、同僚から常に
残業を押し付けられてしまうような、お人よしな存在。
(…に、最初は見えるんだけど^^;)
自分は常に損をしていると、やたらネガティブ傾向の
言い換えれば自己意識の強い女性、多分心の奥では
いつか社会に仕返ししてやる。と念じていたんでしょう。
そんな彼女の前に無差別殺人犯・坂口の笑顔が
TVで映し出される。一目で同類(彼女は愛と言うけど)
と見抜いた彼女は、一方的に彼への愛を募らせる。。
獄中結婚に至る女性の心理、私には分からないけれど、
自分の中にある残虐性をその相手に見るんだそうです。
(ちなみに坂口のモデルは明らかに宅間守だそうです)
…もうこの時点でかなり怖いです(爆)
しかし、今作はさらに怖さが増していくのです。
そこいらのホラー作品より寒くなれるのは間違いなし。
坂口の弁護を担当する国選弁護人の長谷川(仲村トオル)
がこの二人に絡み、ほぼ三人のみで物語は展開します。
遺族側の想いなどはいっさい描かれません。
加害者側の心理背景のみが続く、めずらしい作品です。
無条件に自分を受け入れてくれる人間の存在を知って、
ここで描かれる坂口も、徐々に謝罪の弁を口にします。
ところが、そうなると彼女には許せない。その理不尽さ!
社会との接点を持つな?私だけを見ていろ?これって…。
えぇ!?と思うラストの展開も、どう捉えればいいのか。
タイトルの「接吻」が、実はここで判明するのですが…
三人の演技力(特に小池栄子)にもビックリしたけれど、
もっと考えなければいけない何か、を訴える作品でした。
やはりこういう事件を起こす背景に辿り着く何か、が
坂口兄役の篠田三郎の話を聞いていると、見えてきます。
いかに自分が不幸かを訴え、それを社会や他人のせいに
する無差別殺人事件を見ていると、原因を自分の中に
見出すことが出来ない人間の驕りや甘えが弱さに転じて、
だったら○○してしまえばよい!といういきなりの結論に
結びつけようとする強引さが、ちぐはぐな印象を受けます。
小さな子供が、自我を押し通しているのと変わらない…。
多分観客は、ややうっとうしい熱血漢の長谷川(失礼!)と
同目線でこの二人を追うことになるんだけど、こういう
口やかましい、おせっかいな他人が少なくなりました…。
自分以外の誰かのために親身になってあげられる人間が、
本当は今、一番大切な存在なのかもしれないですね。
(小池栄子の不気味な笑顔、夢に出てきそうで怖かったx)