アメリカを売った男 : 映画評論・批評
2008年2月26日更新
2008年3月8日よりシャンテシネほかにてロードショー
リアルな心理描写に比重を置いた2人のスパイの騙し合い
20年に渡ってロシアに情報を売り続けていたFBI幹部ロバート・ハンセンと、彼の尻尾を掴むために部下として送り込まれたエリック・オニール。2人のスパイの騙し合いの中で、本音と建て前がフラフラと迷いながら飛び交うのが面白い。
実力は一番と自負しているのにトップへ出世できなかったハンセンは、謹厳実直を装いながら、捜査現場の体験がなかったのが敗因とデスクワークばかり押しつける人事をネチネチと怨む。対するオニールは、手柄を立てて捜査員に昇格したい野心と人を騙す後ろめたさの間で、良い子ぶって悩んでいる。
スパイ物と言っても「007」みたいな派手なシーンは皆無。現実はこんなものなんだと、心理描写に比重をおいて地味な作りに徹した分、キャラクターたちの迷い続ける気持ちがリアルに描けた。ハンセン不在の数分の間にデータを盗んだりする、いわゆるスパイ戦らしきサスペンス・シーンも、地味な割に効果的でハラハラさせられる。
初の主演に力んだのか、クリス・クーパーがやりすぎなのが惜しい。いかにも怪しい“鵺(ぬえ)”のような男になっていて、これでは最初から有罪なのが明白だ。原題は秘密などの漏洩を意味する「Breach」。「アメリカを売った男」という邦題は、最近一番の出来。
(森山京子)