「百万円で買えない人生。」百万円と苦虫女 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
百万円で買えない人生。
チラシやポスターを見る限り、今が旬の蒼井優・主演の
ポップなガールズムービーの一つなんだと思っていた。
監督・脚本は「タカダワタル的」や「赤い文化住宅の初子」
(残念ながらどちらも未観)などの女性監督・タナダユキ。
いや、まさか。。
こんなに完成度の高い作品だとは思わず、(ゴメンなさい)
ラスト間近で、オイオイ泣いてしまった自分にもビックリ。
今の世の中、人付き合いほど難しいものはない。
例えば今、相手との距離が上手くとれなくて悩んでいたり、
昔から人見知りだとか、大勢の中で浮いてしまうとか、
学生だったら「いじめ」に合っているとか、そんな全ての
「不器用なヒト」に贈りたくなる愛すべきストーリーなのだ。
主人公は、とある事件に巻き込まれて(意外に笑えない)
前科がついてしまった手前、百万円を貯めて実家を出る!
と宣言した鈴子(蒼井)。次々と居場所を変え、その土地の
人間たちと関わりながら自分再生の道を模索する日々。
可愛い顔をしているうえ、人に好かれる要素もあるのに、
なかなか他人となじもうとせず、逃げまどう毎日。
とある土地でバイト青年・中島(森山未來)と出逢ったのを
機に、彼女の生き方が変わるかと思われたのだが、、、。
蒼井優のストイックな内向演技と並行して描かれるのが、
彼女が家に残してきた小学生の弟。
この憎まれ口ばかりを利く生意気小僧が、実は学校で
壮絶ないじめにあっていることを、この姉は知らない。
姉は転々とし、弟は来る日も来る日もいじめを受ける。
この対比を、監督は冒頭から延々と描いてみせる。
なにが言いたいのかは自ずと分かってはくるものの、
後半、弟が姉にしたためた手紙の内容には、おそらく
この姉でなくても不甲斐なさに泣けてくるに違いない。
自分が自分であり続けるためには、どこにいようとも
どうあるべきなのかを、この弟が教えてくれるのである。
女性監督らしい視点から世界感を広げた映像美。
つましいひとり暮らし、手作りのカーテン、家庭菜園。
ケータイもパソコンも使わない意思疎通がある一方、
ふとした誤解がもたらす悲劇をユーモラスに描ききる。
どの土地の人々も、食べ物も、それぞれに素晴らしい。
信じ合うことの難しさ、本音を言い出せないままの
男女間に起こるよくある悲劇の顛末が、えぇ~!?と
いう驚きとともに迫りくるラスト、突然の幕切れの後、
それからどうなったのかが今でも気になって仕方ない。
まさに苦虫食ってんじゃねーよ!と励ましたくなる作品。
(想いは素直に伝えるのが一番。でも桃娘見たかったな。)