百万円と苦虫女 : 映画評論・批評
2008年7月8日更新
2008年7月19日よりシネセゾン渋谷、シネ・リーブル池袋ほかにてロードショー
肩の力を抜いたゆるさ加減が妙に心地いい
いま監督たちの評価が高い旬の女優・蒼井優が主演する、コミュニケーションの難しさをテーマにしたほろ苦いロードムービーだ。蒼井が演じるヒロインの鈴子は事件に巻き込まれて前科がつき、家にいづらくなって転々とする。不器用で他人とも自分自身ともうまく距離をとれない彼女は、「自分探しなんて、むしろしたくない」と言うが、実は、自分と向き合うしかないとわかっている。預金が100万円になったら次の場所に引っ越すというユニークなルールも、友人や知り合いのいない土地で自分と向き合い、納得できるペースで自己再生しようとしているから。
監督・脚本は「タカダワタル的」や「赤い文化住宅の初子」などで注目される女性監督のタナダユキ。アパートの窓辺に植木鉢を並べてネギやトウガラシを育てたり、鈴子が手作りのカーテンを持って旅をするといった、女性監督ならではの生活に根ざした視点がいい。ヒロインだけでなく、鈴子が恋をするホームセンターで働く中島(森山未來が好演)、いじめにあっている鈴子の弟など、男性キャラクターもよくできている。細かいディテールにリアリティがあるから、女の子版寅さんのような鈴子の生活も地に足がついたものに見えてくるのだ。とりあえず自分の足で歩いてみようという鈴子の精神と、全編にただよう肩の力を抜いたゆるさ加減が妙に心地よく、共感度の高い作品になっている。
(おかむら良)