劇場公開日 2009年9月19日

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「意外に戦いのシーンがリアル」カムイ外伝 テツさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5意外に戦いのシーンがリアル

2010年4月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

直接の原作となるカムイ外伝だけでなく、カムイ伝も全巻読んでいる者としてのレビューです。

 リアル忍者ものの第一人者白土三平さんの作品の映画化ということで、不安半分・期待半分で見ました。カムイを実写映画にするなんて無茶なことをする人がいるものだ、と思いつつも、白土三平ファンとしては見ずにはいられない。
 俳優陣は非常に良かったです。松山ケンイチって初めて見たのですが、カムイの雰囲気が出ています。走り方も表情もクールで格好いい。好演。
 宮藤官九郎脚本ということで原作を換骨奪胎してしまわないかと心配だったのですが、意外にも(?)原作にかなり忠実で堅実な脚本作り。見直しました。
 浜辺での戦いのシーンでは、忍者の卑怯な(=頭脳的な)戦いぶりが描かれ、これぞ忍者!と膝を叩きたくなりました。原作にある躊躇なく残虐なシーンを描く姿勢は、かなり抑えられていて、実写に当たっての配慮かな、と感じました。
 問題点は、ワイヤーアクションとCGの作り物っぷり。崔監督は、最低限、物体の落下運動の軌道について勉強してほしい。マンガでの動的な表現法をそのまま実写・CGで表現してもリアリティが出ないわけです。忍者の超人的な体術の表現は、吹き替えでスタントマンを使っても良かったんじゃないかな。
 変位抜刀霞切りは崔監督の解釈に疑問。この技は、カムイの超人的な身軽さを生かして相手の間合い取りを狂わせるのが本質の技です(原作に技の解説あり)。映画の描写では、幻術のように感じてしまう。
 カムイがなぜ抜け忍となったか、なぜ抜け忍は追われるのか、そういう疑問は疑問のまま答えを出さず、ひたすら追われる者の姿を描くのがカムイ外伝の世界です。映画では、「なぜ?」に答えようとして説明的になってしまっています。カムイ外伝もカムイ伝も、意図的に説明を省略する姿勢が貫かれており、「なぜ?」の部分は読者が自分で考えたり、深く読み込めば分かってくる、という作品です。映画もこういった省略の美学を取り入れた方が深みのある映画になったのに、と思います。崔監督が原作ファンなら、分からないところは原作を読んでね、という映画作りで良かったのに、と思います。
 映画では、身分差別問題を取り込もうとしていますが、これはカムイ伝の世界であって、カムイ外伝の世界じゃない。もう少し整理した方が良かったんじゃないかな。
 出来のいいシーンと出来の悪いシーンの落差がかなりあるため、評価のばらつきが大きくなっているのだと思います。
 この映画を見てがっかりした人は、是非とも原作を読んでみて下さい。素晴らしいですから。

テツ