「ちょっと綺麗事過ぎ」おくりびと かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと綺麗事過ぎ
自ブログより抜粋で。(ほぼ全文)
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最初に結論を書いてしまうが、誰もが避けて通れない人の死を通して人が生きることの素晴らしさを謳い上げた秀作。
まさに様式美という言葉がふさわしい納棺師のよどみない所作と山形の美しい景色に心洗われ、かといって堅苦しい映画かというと随所に笑いをもたらすユーモアも忘れない、ベテラン滝田洋二郎監督の力量がいかんなく発揮された珠玉の名作といっていい。
しいて難点を挙げるとすれば、大悟が納棺の仕事をしていることが周囲の噂となって、秘密にしていた妻・美香にもばれてしまうくだり。
それまで良妻を絵に描いたようだった美香が、一方的に「汚らわしい」とまで言い放つのはさすがに引いた。
そこに至るまでの大悟の成り行きを見ていた観客としては当然彼に肩入れするのだが、そのひいき目を差し引いても美香や親友・山下(杉本哲太)の極端に差別的な言動には不快感を感じずにいられない。
納棺という特異な仕事に対する世間の冷たい視線を象徴的に描くにしても、こういう人が嫌がる仕事も誰かがやらなくちゃいけない必要な仕事だということは少なくとも理屈ではわかるだろうに、そういったフォローのないこの展開は、ある種の御都合主義だろう。
とまあ、ここまでは理性で語れる切り口なんだけど、実は個人的にはそれ以上にこの良作を素直に観られなかったんだよな。
自分で言うのもなんだけど、半分愚痴みたいなもんなんで軽く読み流してもらって結構なんだけど、ちょっとこの話は綺麗事過ぎる気がしてね。
最初に思ったのは、広末涼子が演じる妻・美香ができすぎだろってこと。こんな若くて可愛くて、さらに二人で食っていけるだけの手に職を持った理解ある良妻がいるなんて羨ましすぎる。職を失ったくらいじゃまだまだ人生楽しそうじゃないか。
おまけに、(こういう映画に対してこんな事言うのは失言でしかないが)一緒に暮らすとなったらなにかとやっかいな親はすでに他界し、自由に使える実家が残されており、住む場所にも困らないときたもんだ。
この映画は笑いとペーソスを交えて人生って素晴らしいってことを描いているけど、自分みたいな陽の当たらない負け組人生を歩んでる身から言わせると、無菌培養された白日夢のような人生に見えるんだけど。
映画冒頭でちょっとつまずいて嘆いてみせてるけど、血も出なきゃ、膿もヘドも見ることなく天職に巡り遇う、考えてみたら相当幸せな人生じゃん。
もちろんこんなことはこの映画の言わんとするところではないんだけども、この映画のクライマックスの、ある人物の遺体を乱雑に扱う人たちに大悟が怒りをあらわにするシーン。ここまで大悟と一緒になって人の死の荘厳さを見つめてきた観客ならそんな彼の気持ちに大いに共感できるだろう。
けど、現実の世界では、遺体の扱いに限らず様々なことで気持ちとは裏腹に粗雑に立ち振る舞うようなことは珍しいことじゃない。日々の生活は綺麗事だけじゃなかなか立ちゆかないものだから。
自分はこのシーンで、その粗雑に扱っている人たちの方により人間味を感じてしまった。これが普通の日常だよなって。
この映画が素晴らしい作品であることを覆すつもりはないけれど、人の死を通じて人生の機微を描くならば、そういう点にも目配せが欲しかった。
大悟が最後に目前の遺体から悟ったのは、もの言わぬその人物の綺麗事では済まされない生き様だったはずだから。