「【”人間の死と生とは何かという深淵なテーマ”を、雄大な月山を遠景にした庄内平野を舞台に描き出した秀作。】」おくりびと NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”人間の死と生とは何かという深淵なテーマ”を、雄大な月山を遠景にした庄内平野を舞台に描き出した秀作。】
ー 青木新門さんの「納棺夫日記」を読んだのは、手元にある本の奥付を見ると、1997年だったようだ。 その後、今作が公開され、私は”観た気になって”映画館で観る事は無かった。
が、その後、複数の媒体にて今作を鑑賞し、素晴らしき映画である・・、と思った。-
<Caution! 以下、内容に触れています。>
■何度観ても、クスっとなるシーン。
ー伊丹十三監督のテイストを感じるシーンでもある。-
・小林大悟(本木雅弘)が、東京でチェロ奏者として活躍する、夢を絶たれ、故郷の山形県酒田市の父親が経営していた、喫茶店で第二の人生を歩もうと、NKエージェントの面接を受けるシーン。
社長(山崎務)は、履歴書も見ず、採用と言い、そのまま”葬儀用ビデオに出演させられるシーン。
毛を剃るシーンで、実際に頬を切られたり、散々である・・。
ー 「お葬式」の喪主の振舞いを覚えるビデオを思いだす。 ー
◆ジワリと沁みるシーン
・小林が、死後2週間たった、独居老人の死体を扱った後,死臭を落とすために寄った銭湯で、偶然出会った高校時代の同級生、山下。そして、常連(笹野高史)。
一人で、銭湯を切り盛りする山下の明るい母(吉行和子)の姿。ー
・小林が、会社に行かず、川を橋の上から眺めているシーン。遡上する鮭の姿。産卵が終わり、死して流れてくる鮭の姿。
- 生命は生まれ故郷に帰る・・。-
・いい加減に見えた、社長の納棺の所作の静謐な美しさ。
- 山崎務の演技の素晴らしさとともに、自然に涙が込み上げてくる、死者への礼節を忘れない姿。この映画の素晴らしき点である。
その姿を見た喪主の夫の涙と言葉。”あいつ、今までで一番綺麗でした・・”-
・妻(広末涼子)が、夫の真の仕事を知り、一度は家を出るが、小林の家に戻って来るシーン。
”子供が出来たの。自分の仕事を、誇りを持って生まれてくる子供に言える?”
・だが、直ぐに行きつけの銭湯を一人で切り盛りしてきたお母さんの死が告げられ・・。
- 夫の仕事の尊崇さを初めて身近で見る妻の表情。-
常連さん(笹野高史)が、実は、火葬場の焼き場の係の人で、銭湯の息子(杉本哲太)に告げる言葉。
ー”門番として、多くの人を送ってきたよ・・”ー
・小林大悟を幼い時に捨てた父の訃報が入り、
ー”由良浜だから、すぐ傍に居たんだね”ー
女といなくなっていたと思っていた父が一人で暮らしていた事を知る大悟。
だが、父の顔が思い出せない・・。
市職員の雑な仕事を見て、自ら”送る事””を決める大悟。
妻の言葉。”夫は納棺士です!”
大悟が父を送る所作をしている際に、固く握られた父の掌から落ちた”丸い石”・・
<人が忌み嫌う”亡くなった人を送る”仕事は、実はとても尊崇な仕事であった。
原作をヒントとして、見事なエンターテインメント作品に昇華させた滝田洋二郎監督と、映画化に尽力した本木雅弘さんの熱意が、実った作品。>