「しっとり。」おくりびと 山上 朮さんの映画レビュー(感想・評価)
しっとり。
感想を文章化すると、もしかしたら作品の魅力を必然的に歪めて伝えることになるかもしれない。
文章として評価するなら、評価し易いポイントも沢山ある。
例えばオープニング。「泣ける」という評判を聞いて映画館に来たであろう、その観客に対し、冒頭にユーモアを持ってくる事で構えを解かせる。ここで構えが解けるからこそ、懐に入り込める。
そして実際、この冒頭の「ユーモア」は、その役割を果たしたあと、中盤まで進んでから改めて物語中の正しい場所に位置づけられる。ここにおいて飛び道具が飛び道具でなくなり、作品全体の世界にユーモラスであったシーンが違和感無く溶け込むのだ。
他にも文字にして褒めるなら、鶏肉であったり棺桶の値段であったり、小道具が後でしっかり活かされている。
シナリオのテンポも良い。
とか、そういう褒め言葉はいかにも理屈っぽい。そういうのは上手さであって、「おくりびと」が良くできてる理由にはなっても素晴らしい理由にはならない。
そして、その素晴らしさを伝えようとすると、いかんせん、「雰囲気がいい」とか、そういう余りに舌足らずな言葉に頼らなければならないのだ。
本作は死を扱ってはいるが、必ずしも「如何に死を扱うべきか」というような哲学を観客に問いかけない。
考えたければ考えれば良い。しかし、物悲しさを感じるだけで十分な人はそれでも良い。
本作が作り手の自家発電的なお芸術系作品ではなく、深みのあるテーマを扱いながら娯楽作品として誰もが嗜める。
そういう趣味の良さが希有なんだと思う。
コメントする