「モーガンのナレーションは優雅なバリトン」最高の人生の見つけ方(2007) うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
モーガンのナレーションは優雅なバリトン
何と言ってもモーガン・フリーマン。どこを切り取っても同じで、安心して見ていられる。彼の人生は、ほろ苦く、寡黙で、それでいて雄弁。優雅に、心地よく我々を導いてくれる、水先案内人のようだ。
映画の中でも触れているが、死の許容の5段階(抵抗とか、受容みたいなプロセス)を分かりやすく、面白く語ってくれる。その相棒は、なんとあのジャック・ニコルソン!それだけで、この映画の成功は保証されたようなものだ。プロフェッショナルが遺憾なく力を発揮し、ロブ・ライナーがメガホンを執る。古い映画ファンにはたまらない顔合わせだ。
どうして今まで見なかったんだろう?そう自分に問いかける。「別にいつでもいいんじゃない?」そう。いつ見ても面白い。
だから、今見るべき映画を優先していたら、今になった。得られる満足感は大きいが、新しさはない。そんな作品だ。
ひとつだけ、独特の手法がある。それはモーガンが、ナレーションとロールプレイングを同時にこなしていること。ナレーションは、彼の人生を振り返り、語りかけてくる。その人格は同じもので、今もなお生きている人の語り口だ。ところが映画の始まりの時点で、実は主人公がふたりとも死んでしまっているのだ。
そしてリストに残された最後の一行。これを成し遂げることで映画は完結し、閉じていく。この瞬間に、観客である私は初めて彼らの死を悟り、いま急峻な頂を登り詰めている人物がいったい誰なのかという疑問にぶち当たる。
その男がゴーグルを外すとき、男同士の友情の深さと、人間に与えられたちからの有難みに気づくことができる。
このトリックを採用したのはロブなのか?誰なのか。
知るすべはあっても、もうどうでもいい。無粋だ。誰かが施してくれた心地よいベッドに身を委ねるだけで、死について考え続ける人間の業を悟ることができる。とても印象深いラストシーンだった。