「信じられないものを、信じろ」アリス・イン・ワンダーランド 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
信じられないものを、信じろ
奇想天外な『不思議の国のアリス』の映画化に、ティム・バートンほど相応しい監督もいないかも知れないが、いざ出来上がった作品はどうも彼らしくない出来だった。
キャラ造形やワンダーランドの風景は確かに彼らしくクレイジーな感じだが、物語の展開は性急で驚きも少なく、キャラの性格も普段の彼の映画と比べると単純でやや魅力に乏しい(なんだかブラックな白の女王や常にマイペースなチェシャ猫は好き)。
数多のエキセントリックなキャラを100分程度の尺で見せ切るのは流石に難しかったか。それとも予算のかかる3D映画で、多くの人が観られる手堅い出来を目指した結果か……。
J・デップを前面に打ち出した宣伝といい、A・ラヴィーンの主題歌起用といい、どうにも「売れる映画にしろ」という制作会社側の意向が見え隠れしている気が……考え過ぎかしら?
映画の出来には不満が残ったが、映画から感じられるメッセージには胸を熱くするものがあった。
ワンダーランドを訪れた当初のアリスは何かにつけて「信じない」という意味の言葉を口にする。だが何より信じられないのは『自分に巨大な怪物を打ち倒す力がある』という事だ。
自分の力を試す前に、それに伴う恐怖や苦痛から逃げ出そうとしている訳だ。「信じない」という手っ取り早い方法によって。
しかし、クライマックスで遂にアリスは「信じられないもの」を信じる。それはつまり自分に降り掛かる恐怖や苦痛を受け入れる覚悟を決めたということ。
最後にアリスが見せる晴れやかな笑顔はどんな困難でも笑って受け入れてやるという自信に満ち満ちていて、彼女の眼前に広がった青空のように美しい(アリスの衣装やアブソレムも澄んだ青空色だった)。
恐れるな。自分を信じろ。
大丈夫、君には人生を戦い抜く力が備わってるんだ。
まるでそう言われているかのようだ。
『現実はうまくいかない』という映画が幅を利かせる今のご時世だが、この映画からは古臭くも輝かしい希望の匂いがする。
そんなに世の中甘かないぜと一笑に伏す人もいるだろう。しかしこれは、己のビジュアルセンスや世界観を信じて秀作を作り続けてきたティム・バートン監督の映画だ。少しは信じてみても良さそうな気がする。
ところで2Dと3Dの両方を鑑賞したが、僕は2Dでも遜色無く楽しめた。眼が疲れる3Dよりか2Dがオススメです。
<2010/4/17 2D版鑑賞>
<2010/5/4 3D版鑑賞>