「これも、「チェンジ」なのか」ミルク こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
これも、「チェンジ」なのか
この作品を見終わった瞬間、最初に感じたのは「政権が変わると映画も変わるのか」ということだ。なぜなら、ゲイ・コミュニティを扱ったこの作品は、国内キリスト教一派の支持のもとだったアメリカ前政権のブッシュ体制のときには、公開はできなかったはずだからだ。つまり、それほどにこの作品はゲイや同性愛者の存在と人権を、声高らかに認めている。その意味では、最近のアメリカ映画にはない、画期的な作品だと思う。
しかし、同性愛者の価値観を高めただけの内容ならば、アカデミー賞候補にあがるほど共感を呼んでいない。そこがこの作品の重要なところだ。この作品の主人公ミルクは、同性愛者だけでなく、黒人など多くの虐げられている者たちへのメッセージをこめていたからこそ、政治の世界で支持を得られていた。そのことを、この作品は事実を時間軸とおりに積み上げながら、丹念に、きめ細かく描いている。監督ガス・ヴァン・サントらしい、ドラマチックなものを排除した、淡々とした演出が、実に効果的に主人公ミルクを描いて見せているのだ。
そして何より、観る者が作品内容に共感をえるところは、主人公の前向きさ、だ。「希望を与えなくては」と言いながら、自分の信じる道を歩もうとする主人公の姿は、信じられるものが少なくなってきた我々には、とても示唆にとんだように感じる。どんなことがあっても前を向く、希望がなければ人生は生きる価値などない、と言うミルクの姿に、観ている者が、それまでの後ろ向きの生き方を「チェンジ」して、前へ向いて生きる力をもらえるような気分になるのだ。今、だからこそ、この作品が公開されたのは、とても重要なことのように感じる。
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