劇場公開日 2009年4月18日

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ミルク : インタビュー

2009年4月10日更新

ショーン・ペンが70年代アメリカ・サンフランシスコに実在した政治家ハービー・ミルクを熱演し、見事第81回アカデミー賞主演男優賞を受賞した「ミルク」。同性愛者であることを公表した上で、米国史上初めて公職に就いたハービー・ミルクの愛と闘いの日々を綴った本作について、ミルク同様に同性愛者であることをカミングアウトしているガス・バン・サント監督が映画化への道のりなどを語ってくれた。(取材・文:森山京子)

ガス・バン・サント監督インタビュー
「10年以上も前からトライしてきたんだ」

ショーン・ペンは「ミスティック・リバー」(03)に続いて2度目のオスカー受賞
ショーン・ペンは「ミスティック・リバー」(03)に続いて2度目のオスカー受賞

──あなたがハービー・ミルクに関心を持ったのはいつ頃ですか?

「ミルクが殺された78年当時は、彼の名前ぐらいしか知らなかった。その頃僕はハリウッドにいたけどまだカミングアウトもしていなくて、ゲイ・コミュニティとの繋がりもなかったんだ。本当に彼のことを知ったのはロブ・エプスタインのドキュメンタリー(「ハーヴェイ・ミルク」/84年)を見てからだ。ミルクの実際のストーリーは驚くべきものだし、あの時代の(サンフランシスコの)カストロ・ストリートそのものがもの凄く魅力だった。あの時代にあそこで起きたことを社会学的にきっちり描いた映画は今までなかったから、10年以上も前からトライしてきたんだ」

念願の企画を完成させた ガス・バン・サント監督
念願の企画を完成させた ガス・バン・サント監督

──それは今回の映画とは別のプロジェクトだったんですか?

「別のプロジェクトで、自分で脚本を書いた。その頃は僕がスタジオで映画を撮ろうと思ってもすんなりOKなんか出なかったから、まず有名スターをゲットしようとショーン・ペンとトム・クルーズに脚本を送ってみた。2人とも読んでくれたみたいだけど、僕がちゃんとフォローしなかったせいでうやむやになってしまった。プロデューサーの仕事をまだ理解していなかったってことなんだけど、痛い教訓になったよ」

──ダスティン・ランス・ブラックの脚本とはどう出会ったのですか?

「彼が直接持って来てくれた。それを読んだ時、新しいチャンスが生まれたと感じた。それで一緒にプロデューサーを探そうと相談して、脚本を練り上げていったんだ。ミルク役をショーンに依頼したのは、前の行きがかりもあるし、何より彼はいい俳優で、政治的発言も多いからね。彼がやりそうにない役なのもいいと思った。彼の演技は素晴らしい。特に集会のシーンで、真っ向から言葉をぶつけるだけじゃなくて、ユーモアやたどたどしさ、初々しさもあるミルクの雰囲気をあれほど表現出来る人はいないと思った」

──あらたにリサーチをしたのですか?

「カストロ・ストリートとその時代について、充分時間をかけて調べたし、しばらくサンフランシスコに住んでみた。ミルクの片腕だったクリーブ・ジョーンズから聞いた話はとても有意義だった」

──政治家としてだけでなく、プライベートな面の比重も大きいですね。

「彼が政治的な活動をするようになった背景を描く必要があったからだ。当時は公の場で手を繋ぐことも、バーでダンスを踊ることも禁じられていて、逮捕されたり罰金を払わされたりした。自分たちのライフスタイルが違法だと言われたから、彼は行動を起こしたんだからね」

カストロ・ストリートの革命が やがて合衆国をも動かしていく…
カストロ・ストリートの革命が やがて合衆国をも動かしていく…

──フィクションの場面もあるのですか?

「実際にあったことをもっとシンプルな形で描くという意味ではある。それと、最初と最後にいれたスコットとのシーンは、ミルクのキャラクターをくっきりさせるために脚本で作った。その他はほとんど事実だよ」

──射殺犯のダン・ホワイトはクローゼット・ゲイ(ゲイであることを隠している人)だったという説もあるし、この映画でもそう受け取れるような、抑圧された男として描かれていますね。

「リサーチでもそういう話を聞いた。ミルクは身の危険を感じていて、ダンがクローゼット・ゲイだと言って怯えていたらしい。でも、僕には彼がゲイだったかどうかの確信はない。彼を抑圧された状態にしたのは、あくまでも彼自身の環境からくるストレスだと考えて演出した。彼は保守でカトリックでマッチョだったけど、ゲイであるミルクに何をやっても適わない。支持者からの突き上げも激しい。それが彼を追いつめたんだと思う」

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