トロピック・サンダー 史上最低の作戦 : 映画評論・批評
2008年11月18日更新
2008年11月22日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー
あくどくておかしくてたまらない。毒と機略が地雷のように炸裂する
「地獄の黙示録」からは「ハート・オブ・ダークネス」という副産物が生まれた。もしこの副産物に「ボラット」のサシャ・バロン・コーエンが手を加えたら……。
「トロピック・サンダー」は、思わずそんな妄想を抱かせる映画だ。筋書や芝居やギャグが腹の皮をよじらせるだけではない。話の仕掛けが二重底三重底になっていて、簡単に飽きが来ないどころか、毒と機略とガッツが地雷のように炸裂する。つまり、呆れ返るほどの誇張と、舌を巻くほどの犀利さが、映画のなかで背中合わせになっている。
主人公は、ハリウッドの映画スター3人だ。落ち目のアクションスター(ベン・スティラー)、シモネタ専門のコメディアン(ジャック・ブラック)、役作りに異様な執念を燃やすオスカー俳優(ロバート・ダウニー・Jr.)。この3人が東南アジアで戦争映画を撮っているうち、ジャングルでゲリラ撮影を行う羽目になる。そこに潜んでいた現実の麻薬密造組織が、彼らをアメリカ軍と勘違いし……。
ひとつまちがえれば客を白けさせるだけのきわどいドタバタの綱を、監督も兼ねるスティラーは、度胸一発で渡り切る。笑いのツボを知悉し、虚栄と貪欲にまみれた業界に精通した彼でなければ使えない技だ。3人のなかでひときわ光るのはダウニーだが、カメオ出演の大スター(最後に名前が明かされる)のおかしさには口をあんぐりさせるほかない。
(芝山幹郎)