ATOM : 映画評論・批評
2009年10月6日更新
2009年10月10日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
“原作にはなかったが見たかったもの”を見せてくれる新生アトム
AIBOやASIMOが誕生したのは、鉄腕アトムがいたから。日本人のDNAにはアトムによって“ロボットへの愛”が書き込まれている。そんな私たち日本人が納得できるアトムを、果たしてハリウッドが生み出せるのか?
だが、この心配は不要だった。この映画でも、アトムの根幹は原作と同じ“心やさしい科学の子 みんなの友だち 鉄腕アトム”。年齢はアメリカの観客が幼児虐待に過敏なため、原作より大きい小学校高学年だが、この根幹が同じなので、見ていて違和感はない。
と、ここまでは必須条件。本作の魅力は“原作にはなかったが見たかったもの”を見せてくれることだ。原作同様、天才科学者・天馬博士によって死んだ息子そっくりに作られたロボットは、博士自身に「お前は息子ではない」と捨てられる。そのロボットがどんな体験を経て“アトム”になったのか。それを描く映画オリジナルのストーリーは、アトムの世界観に合致している。
特筆すべきは、原作にはない天馬博士とアトムの和解のシーンが描かれることだ。原作のアトムは創造主・天馬博士に愛されることなく、人類を愛し続ける。だが本作では、天馬博士はアトムのある行為を目の当たりにして「お前は私の息子だ」と告げるのだ。1952年の原作コミック誕生以来、実に57年の歳月を経て、しかも他国の人々の手によって、アトムは初めて父の愛を体験する。この事実に心揺さぶられずにはいられない。
(平沢薫)