「 こんなに重く、せつなくさせる映画であったなんて、思いもよりません」ダークナイト 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなに重く、せつなくさせる映画であったなんて、思いもよりません
ジャパンプレミア試写会場は、主要出演者の登壇で異様な興奮に包まれました。クリスチャン・ベールの紹介の時には、きゃーという黄色い歓声も。そのテンションのままエンディングを迎えて、大きな拍手と喝采に包まれました。そればかりではありません。エンドロールに、出演者のクレジットが映し出されるたびに拍手が起こるのです。試写会でこんな光景は初めてみました。特に、「この作品をヒース・レジャーに捧げる」というテロップが出たところでは、一段と大きな拍手が起こったのです。
それくらいヒース・レジャーが演じたジョーカーは、衝撃的でした。まずはジョーカーについて語らせてください。
舌を蛇のようにくねりながら独自の韻を踏んで語りかけるジョーカー。
それはまさにイカれた悪そのものでした。全身から極悪非道を退屈しのぎと遊びにしてしまう彼の狂気、そして妖しさをヒース・レジャーは、まるで人格が乗っ取られ、完全に憑依されたような感じて演じていたのです。バットマンとの直接対峙するシーンでは、思わず感極まって涙がハラハラと止まりませんでした。なぜでしょう。なぜあんなジョーカーに涙するのでしょうか。いえいえ、そうではありません。小地蔵の心は、ヒース・レジャーにつながって、演じることの喜び。そしてパーフェクトな演技が出来た達成感に浸って、もう思い残すこともないという気持ちにつながって、感動したものと思います。
彼は今天国にいます。きっとこの作品の演技について、一点の悔いも残さなかったでしょう。もうみれないと思うと本当に残念でなりません。心より感謝します。
さて作品紹介に戻ります。
冒頭のジョーカーによる銀行強盗シーンから、アクションに次ぐアクション。短いカット割りとスピーディ過ぎる展開に、追いついていけなくなることも。それもすぐさま次のどんでん返しや事件が起きるので、飽きさせる暇がないほどなんです。
すごかったのは、病院のビル1棟がまるまる爆破されるシーン。どうもこれはCGではなさそうです。さすがに1.6億ドル映画です、やることがでかいデス。
そして裏の裏をかくストーリー展開で、何度もクライマックスが訪れます。長めの作品なので、2~3本まとめてみたような充実感を感じました。
ノーラン監督は、「同じことは繰り返さない」と自身の前作とも決別。ゴッサムシティーも一新し、今までなかったようなヒーロー像に挑戦したのが本作です。何しろバットマンが自らヒーローでないと宣言し、町の警察に追われるお尋ね者の身であるというから驚きです。ただでさえ罪人扱いされているのに、輪をかけてある人物の警官殺しの汚名をかぶってしまうのですから、アメコミヒーローもの範疇を超えています。
原題の「The dark night」とは、「暗黒の騎士」を意味します。たとえ人々から恐れられて語られる存在と思われても、自分は町を守っていくのだというパットマンの決意を表したタイトルでした。
けれども本来ヒーローであるはずだったバットマンをそこまで追い込んだのは、ジョーカーの悪知恵ゆえでしょう。けれどもこれまでのヒーローものでは、「光は闇に勝つもの」であったはずです。
しかしこの作品は、バットマンの方が思い知らされてしまうのです。光が闇に堕すことを。ヒーローがたとえ一面でも敗北するなんて設定は、あり得ないことでした。そういう点ではお約束ごとをことごとくノーラン監督は打ち砕いていまったのです。
その象徴がハーベイ・デント地方検事の二面性に表されていたのだと思います。デントの顔がジョーカーの仕業によって、半分を破壊され二面によってまるで違う顔つきになったとき、精神面でもジョーカーによって隠された顔が引き出されてしまいます。
彼はバットマンをしのぐ表の世界のヒーローであり正義の象徴でした。一時バットマンは、彼に託して引退し、愛するレイチェルのよき夫として生きようと決意したほどです。
そのレイチェルはどうだったかというと微妙なんです。
実は、バットマンの活動のためブルースはレイチェルが巻き添えにならぬよう、交際を避けていたのです。間に、彼女はデントにも恋してしまいます。レイチェルを演じたマギー・ギレンホールが気をつけた点としては、偏りなく両方愛することに徹したそうです。確かにどっちともいえない演技でした。彼女は、レイチェルを演じつつ、真のヒーローとはどうあるべきか考えながら演じたそうです。
この恋の意外な結末にも注目ですぞ。
あともう一つ衝撃だったのが、重要人物が死んでしまうことです。「24」のパーカー大統領暗殺以上の衝撃を受けました。そしてとても悲しみを感じたのです。
こんなに重く、切なくさせる映画であったなんて、思いもよりませんでしたね。
追伸
作品の冒頭。強盗に遭う銀行の現場責任者として、プリズン・ブレイクシーズン2でマホーン刑事役を演じたウィリアム・フィクナーが出演しています。彼らしい勇敢な役所で、ジョーカー一味に単独で立ち向かっていきました。冒頭だけの出演で消えてしまい、もっと出てほしかったと思います。