「ありそうでなかったタイプの宇宙人襲来映画」第9地区 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
ありそうでなかったタイプの宇宙人襲来映画
宇宙人が地球に飛来する目的と言えば侵略か不時着だと相場が決まっていますが、本作の宇宙人はそのどちらでもない。大群で押し寄せてきたにも関わらず、地球にやってきた理由は不明。それどころか自分たちだけでは生活もままならず、人間に迷惑を掛けながら難民として生活をはじめる。
今までありそうで無かった新しいタイプの宇宙人襲来映画でした。設定がまず面白いし、モキュメンタリーのように始まる序盤のテンポの良さが気持ちが良い。世界観が冒頭のニュース映像などから分かるようになっているし、冴えないオッサンにしか見えないヴィカスが「何かやらかした」ってことが分かるようになっていたので、ストーリーの展開を期待させる演出になっていたのが素晴らしかった。多少のゴア描写がありますが、あまり気にならない程度の描写だったので、色んな人に観てほしい作品でしたね。観終わった後の感想を語り合うのも楽しいタイプの映画だったと思います。
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1982年、突如として南アフリカ上空に姿を現した巨大なUFO。動きが無いその物体に調査隊が乗り込むとそこには病気で苦しみ飢餓状態に陥ったエビのような姿のエイリアンが大量に犇めいていた。UFOの真下にキャンプを設営してそこにエイリアンたちを難民として移住させたが、その宇宙人は窃盗などを繰り返し治安は悪化し、エイリアン居住区である「第9地区」はスラム街と化していた。そして宇宙人の飛来から20年後、エイリアンの爆発的な人口増加と周囲の町との軋轢が問題となっていたことからエイリアンたちを「第10地区」に移住させる計画が持ち上がり、その計画の責任者としてヴィカス(シャルト・コプリー)という男に白羽の矢が立った。
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本作は、映画ファンとしても有名なライムスター宇多丸さんも大絶賛した作品です。細かな設定の不備などはありつつも、そんな些末なことは気にならないくらい演出や脚本やストーリーについて大絶賛していました。映画ファンの方からの評価は軒並み高いように感じます。
本作の主人公のヴィカスって、あんまり主人公っぽくはないですね。ただの仕事人間と言うか、自分に与えられた役割を必死にこなしているような感じもありつつ、妻の父親でもある職場の上司のご機嫌取りをしつつ、エイリアンの卵を笑いながら焼き払うシーンなんかもあって「小物っぽいしずる賢いし残虐な一面を持っている」ということが描かれていきます。他の映画だったら敵のボスの後を金魚の糞のようについていくだけのキャラクターみたいな感じの描写が多いです。主人公っぽさは微塵もありませんね。そんなヴィカスの身にとある出来事が起き、「差別する側」から「差別される側」になってしまった後の心情の変化などの描写は本当に見事でしたね。最初は利己的で差別的だったヴィカスがどんどんと人間的に成長していく様子は見ていて感動です。
この映画に限らず、映画の劇中で起こる「立場の逆転」が映画としての面白さに直結するということがよくあります。例えば、邦画サイコスリラー作品として私が一押ししている『ヒメアノ~ル』という作品があるんですが、この作品では映画中盤に「殺人鬼を追う側」と「追われる側」の立場が逆転するシーンがあります。この逆転のシーンが、映画の中で一番大々的に盛り上がるシーンなんです。『第9地区』においても、主人公ヴィカスの「立場の逆転」が描かれており、今まで「エイリアンを虐げる側」だったのが「エイリアンとして虐げられる側」に回った瞬間の私のテンションの上がりっぷりは異常でした。
正直、細かいところでツッコミどころも多い作品ですので、そういうシーンがノイズになってしまったところは否めません。しかし、そういう些細なツッコミどころが引っかかる前に流れていってしまうようなテンポの良さや勢いがありましたので、十分に楽しむことができた作品だったと思います。
久々に、最初から最後までダレることも飽きることもなく観られた映画でした。オススメです!!