地球が静止する日 : インタビュー
約60年前のSF名作をベースにした「地球が静止する日」のメガホンを取ったスコット・デリクソン監督(『エミリー・ローズ』)が、現代的要素をふんだんに取り入れて生まれ変わった同作について語る。(取材・文:編集部)
スコット・デリクソン監督 インタビュー
「キアヌが演じたクラトゥは、混乱した現代社会を象徴するキャラクター」
1951年に製作された「地球の静止する日」は、米ソ冷戦下という時代背景から“反戦”が主なテーマになっていたが、デリクソン監督は次のように語る。「確かにオリジナル版は反戦がテーマだったけど、人間の本質を描いた作品だった。今回も人間の本質や反戦もテーマになっていて、特に最近のアメリカの他国に対しての軍事的な反応の仕方は“恐怖”に基づいたものであり、それによってアメリカ国内でも問題が起きている。そういうことへの批判も描いているんだ。
それと、オリジナル版では原爆が人間の存在を脅かしていることが描かれていた。今回も人間が存亡の危機に晒されていることは描いているけど、どちらかというと『これまで人間は地球に対してひどい行いをしてきた報いで、自分たちの存在が危なくなっている』というメッセージが込められているんだ」
宇宙からの使者クラトゥという存在も、友好的な一面もあったオリジナル版とは異なるキャラクターになっている。「オリジナル版でクラトゥを演じたマイケル・レニーは、50年代前半の西洋社会における典型的なナイスガイだった。そんな彼が演じるクラトゥは、礼儀正しくクリーンで好感が持て、いろんな意味でシンプルだった。それに『君たちが変わらないと、僕のロボットがあなた方を殺してしまいますよ』といった教条的なキャラクターだ。
ところがキアヌが演じたクラトゥは、とても複雑で辛らつなところがあり、情熱的な一面もあるんだけど、何が良くて何が悪いのかをはっきり理解していない。ある意味危険なキャラクターで、混乱した現代社会を象徴しているんだ」
そんなクラトゥを演じたキアヌ・リーブスについて、「セリフを喋ったり動いたりしていなくても、観客を引き込む能力がある俳優」と絶賛する監督は、一番最初にリーブスに伝えた言葉が「クラトゥが宇宙からの使者だと感じさせるような演技をしてほしい」だったという。「でも、変な言動や行動でそう感じさせるのではなく、『ただそこにいるだけで宇宙人だと分からせてほしい』と言ったんだ。映画を見てもらえれば、彼が見事に僕の注文を達成していたことが分かると思うよ」
現代の観客に向けてストーリーを一新したことを明かした監督だが、「巨大ロボット“ゴート”は、あまりにも有名な作品のシンボルなので、これは変えるべきではないと思ったんだ。宇宙船や宇宙服もそれほどデザインを変えなかった」とオリジナル版を活かした部分について語る。「ただ、ナノテクノロジーが発達した現代なので、自らあのような(細かい虫の)姿に変わる設定にした。宇宙船に関しても、モーターエンジンで動く宇宙船はいいかげん飽きられていると思い、より生物学的で異星人が考え出したような宇宙船になったんだ」
クラトゥが心を通わせていく生物学者ヘレン(ジェニファー・コネリー)と、彼女の血の繋がらない息子ジェイコブ(ジェイデン・スミス)というキャラクターも、現代社会を反映しているという監督。「今のアメリカにおいて、白人の母親と黒人の子供という関係はそれほど珍しくない。また、父親を失った息子の姿が描かれているが、これも戦争が起こした悲劇であると言える。こういった今の時代を反映させるものをストーリーの中に組みこまれていることが、この作品の素晴らしいところだよね」