「追憶の2時間18分」ツリー・オブ・ライフ カバンさんの映画レビュー(感想・評価)
追憶の2時間18分
この映画を見たのはもう3ヶ月も前になりますが、今でも頭の中に情景が浮かび、モルダウが鳴り響くぐらい、強く印象に残っています。
本作を見る前、“カンヌ”の文字に引かれてビラや雑誌やネットで情報を集めていました。しかし、どの解説文もしっくり来るものがなく、色々な自然のカットがどんな脈絡で繋がるのかも、想像がつきませんでした。
そして、鑑賞後、分かりました。
《説明のしようがない…》
この映画にストーリーはほとんどありません。シーンもそれぞれが切れ切れです。むしろ、脈絡を拒絶している感じがします。また、哲学・宗教的で比喩っぽい描写がかなり多いです。
正直、分かりづらいです。しかし、同時に衝撃を覚えました。最近多く見られる、迫力にこだわった演出に映画の価値基準が移り行く風潮に、挑戦状を叩きつけた映画、それが本作だと思います。
淡々と物語が進むと思うと、いきなり天地創造。約30分、誰も人が出ず、その後に少年期の回想が始まります。
決してドラマティックな展開は起こりません。子どもの頃に触れたもの、知ったこと、それらがひとつひとつ描き出されます。実際、ファンタジーや悲壮感満載な少年期を送った人は、まずいないと思います。(それこそ『映画みたい』だ…)平凡ではなく普遍的な、誰にでもあるような記憶の旅。脳の奥底にある幼い日の記憶の映像化。まさに、卒業式でお馴染みの単語、『走馬灯』です。
この世に生まれ、無償の愛を体一杯に受ける。自我が芽生え、家族それぞれが意識の中に明確に浮き上がる。厳しい父と優しい母、そして弟たち。それぞれに対し感情を抱き成長する。また、老人、障害者、犯罪者、そして死という存在を見て知る。(←昔の自分も、こんな時は何か新鮮な感情を覚えました。)親への反発や葛藤が日増しに膨らみ、そこから悪を知り、悪を犯し、罪悪感を抱く。(←自分でも、こんな時は家に帰るのが怖かったです。親に全部知られている気がして…)
自分自身の記憶と重ねると、共感できる部分もあり、入り込めると思います。しかし、好き嫌いがはっきりしそうですね。レビューでも酷評がチラホラ。
ただ、心がこんがらがって疲れてしまった時に見たい映画です。自分も一旦現実から離れ、劇場の暗闇に身を委ねました。永遠にも似た2時間18分の静かな幻想の後、心のモヤモヤは消え去り、何かホッコリとしました。
心の中に大切にしたい映画でした。一個人の感想ですが…。