「現代人に、捧ぐ」ツリー・オブ・ライフ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
現代人に、捧ぐ
「シン・レッド・ライン」などの作品で知られるテレンス・マリック監督が、ブラッド・ピットを主演に迎えて描く壮大な家族ドラマ。
この夏、最も映画館で観賞すべき映画として注目された「トランスフォーマー・ダークサイドムーン」。そして今、別の観点で最も映画館での観賞が相応しい、いや、映画館でなければ観賞するべきではない作品が出現した。それこそが、本作である。
一組の家族を軸に、人間の絆、愛、生きることを根源から見つめ直すというテーマを掲げて製作された本作。冷静に考えて観賞すれば、ごく普通の家族でごく普通に発生する反抗期、ちょっとした家庭不和を語る作品なのだが、その語り口が全知全能の神様を持ち出した混沌映像詩として語られているものだから、神話にでもなってしまいそうな壮大、かつ壮絶な葛藤の歴史絵巻のような色合いを帯びて観客にぶつかってくる。
のどかな公園で一人、人類愛を叫ぶファンキーな詩人を見ているようで、何だか気恥ずかしくなってしまうのは私だけか。
この作品を家庭のテレビ、または小さなパソコンの画面で観賞してしまうと、暗闇という物語へと問答無用に引きずり込む引力の要素を失ってしまうために、映画への愛ばかり溢れた素人監督の前衛作品のようにインパクトばかりが一人歩きするという危険性を孕む。
観客は家族の井戸端騒ぎばかりを追いかけることになるので、もう観賞どころの話ではなくなるほどに、顔を赤らめてしまうこと必至。まさに、映画館の暗闇という異質のフィールドだからこそ許される作り手の創意工夫が光る生真面目映画だろう。
作品を構築する土台が宗教色の強い観念であるので若干気後れする部分があるが、そのような方のために壮大な風景描写であったり、華麗な地球の創造描写がそつなく用意されているので、もう真夏の疲れを搾り出すようにたっぷりと、暗闇の安眠を楽しませてくれるという親切設計。不意に起きて、渋いピットとペンの男くさい魅力を味わってみたり。また、寝たり。まさに、心と体を休めたい現代人のために、用意された作品だろう。
それにしても、このようなハリウッド娯楽色を拭き取った意欲作にあって堂々と製作を買って出て、意気揚々と厳格な親父を演じてしまうピット様の大らかさと、俳優としての幅の広さには大いに頼もしさを感じる。単なる一過性のスターに納まらない魅力をもった、真の映画人として評価したい。