「人は、悲しみを乗り越える」ツリー・オブ・ライフ マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
人は、悲しみを乗り越える
父親から理不尽な仕打ちを受けた長男が、父親を赦す物語です。
息子を強い男に育てたい父親。でも、その父親の弱さ、身勝手さは息子からも透けて見える。母親は、わずかに抗いながらも、守ってくれない。
やがて、弟の死。
おそらく、これらの映像すべては、父親の年齢をはるかに過ぎた長男ジャックの回想のようにも思われます。それだけではなく、最初から最後まですべての映像は、ジャックの心象なのでしょう。
なぜ、父親を赦す事ができたのか。
何の事件も、きっかけもないのです。当時の父親の年齢をとうに越え、それでも過去が心の中にくり返しよみがえり、両親へのいとおしさとない交ぜになった、悲しみや憎しみが心を支配し続ける。でも人は、あらゆる苦しみから、何とか逃れようとするものです。
それが、彼の中では、宇宙の歴史の中で自分をとらえ直してみる、という方法だったのです。壮大な歴史の流れの中の、小さな小さな存在としての自分。やがては消えゆく、はかなき存在としての自分。父親も、母親もまた、同様な存在。
そんな風に世界を解釈した時、父親から否定され続けた自分を、ようやく受け入れる事ができたのでしょう。弱きもの、はかなきものとして理解した時、心から自分を愛する事ができた。同時に、父親、母親を愛すことができた。すべての存在、すべての歴史を受け入れることができた。だから、映画のはじまりが、母親のあの独白から始まるのです。そして、映画のおわりは息子が出会ったすべての人たちが、平穏な、安息な姿で回想されるのです。
テレンス・マリック監督は、大学や大学院で哲学を学んだ人だそうです。そして、実際に2人の弟がいて、一人は音楽の道に進んでいながら自殺で命をたっている。
まさしく、監督、彼自身のための映画なのです。
きっと、監督と同じ傷を心のどこかにもった人には、この映画の評価は5でしょう。そうでない人には1もないくらい。わたしの場合は、3くらいかな。変な映像、とばしたし。