「2人の罪の重さ」愛を読むひと Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
2人の罪の重さ
本作を恋愛映画と捉えるか、ナチ戦犯に関わる男女の罪と罰を問う冤罪映画と捉えるかによって、ヒロインの人物像の解釈が大きく変わってくると思う。ヒロインがあの時点で自殺した理由の答えは「愛を失ったため」だと私は思う。そう、本作は紛れも無い恋愛映画なのだ。
確かに、ナチ親衛隊の看守として収容所勤務をしていたヒロインの裁判が最重要モチーフとなってはいる。忽然と目の前から消えた、愛した女性が犯罪者として目の前に現れたら?年上の女性との愛の日々。少年は官能の日々にのめり込んで行くが、女の方はどうだろう?女に「愛」はあったのか?それとも単なる「遊び」に過ぎなかったのか?女が少年の前から姿を消したのは、少なからず「愛」のためではなかった。本作における重要なキーポイントとなる、彼女が人生をかけてまで守ろうとした「秘密」。電車の車掌をしていた彼女は、日ごろの仕事振りをかわれて内勤(事務職)へ転属となることを告げられる。当時の女性としては大きな出世であったはずのポストを捨てて、彼女は黙って町を出た、少年に別れも告げずに・・・。彼女が生涯守り通した秘密、それは「文盲」であること・・・。
ここで私はもう1度問いたい、2人に愛があったのか?少年の「愛」の形は容易に想像が付く。魅力的な年上の女性との恋愛は、思春期の幻影に過ぎない。裁判で彼女が文盲であることを彼が証言すれば、減刑になることを知りつつそうしなかったのは、彼女のプライドを尊重したかったこと以上に、被告と関係があったことを隠したかったというのが正直な気持ちではなかったか?少年の「愛」は「恥」に変わってしまったのだ。やがて大人になりようやく過去を振り返ることの出来た彼は、のしかかる罪悪感によって「朗読者」たることを選ぶ。無機質な監房の中で、「坊や」から送られてくる朗読テープによって、「愛」を取り戻したと思った彼女は、テープを手がかりに独学で文字を覚え、「坊や」に手紙を書く。しかし男は返事を書かない(書けない)。刑務所長からの依頼で身元引受人になっても、彼女の握手を拒んでしまった男の弱さ・・・。彼の心を直感的に見破った彼女の心境いかばかりか・・・。
彼女は冤罪で一生を棒にふったことよりも、自分の犯した罪を自覚することよりも、生きる希望(=文字)を与えてくれた「坊や」の愛を失ったことに絶望したのだ。取るに足りないプライド(文盲など恥じることは全く無かったのに!)のために、人生と愛を犠牲にした彼女の哀しいキャラクター。
ホメロス、ハーディ、チェーホフなどそうそうたる名作文学の中でも特にロマンス小説を好んだ彼女は、やはり「愛」に生きた人だった。小さな「秘密」を抱えた彼女だが、仕事や愛に対しては、どこまでも正直な人だった。
こうして男はまた1つ大きな罪悪感に苛まれる。彼の犯した罪の大きさと、彼女の犯した罪の大きさを秤にかけると、どちらが人生に正直であっかどうかで、ほんのちょっぴり彼の方が重いかもしれない・・・。
私も坊やの事についてあなたと同じような感想を持ちました。でも、原作を読んだ方のレビュー読んで、彼女の心情が分かりました。彼女は、ルーマニア出身で文盲である事を知られると、ロマであることが分かってしまう事を恐れたのです。ウィキィペディアでロマについて読みました。ユダヤ人同様に迫害されている民族でした。あの時代、ロマでありアウシュヴィッツで看守をしていた彼女と関わり合いを持つ事に坊やが苦悩した事に納得出来ました。