「邦題は『朗読者』でイイんじゃなかろうかと…」愛を読むひと 凛々シストさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題は『朗読者』でイイんじゃなかろうかと…
正直、前半の盛りの付いた犬みたいな思春期の青年マイケルと、何処か謎めいたミステリアスな女性ハンナとの間で交わされる官能シーンは、個人的に何の色気も感じなかったし、結局身体が目的かい!と思って、情事が行われる前の本の朗読の意味もわからず、イライラしました。
しかし、中盤以降雰囲気はガラッと一変し、ハンナが第二次世界大戦下において、SS(親衛隊)としてナチスに加担し、アウシュビッツ強制収容所にユダヤ人などを送り込んでいたか否かの法廷サスペンスみたいになって、この辺りから、だからドイツのこの時代が舞台なのか!と個人的に納得して、凄く面白くなってきたんですけれども、その法廷シーンで、ハンナの明かされたくないとある秘密(コンプレックス)に気づいた時、前半の朗読とセットの官能シーンにも、ハンナが時折見せた謎めいた態度やら表情の意味にも妙に納得して、それ以降、プロットの巧みさに唸ると同時に、涙なしでは観れませんでした。
そしてケイト・ウィンスレットも、オスカーをはじめ、各賞を多数受賞するほど絶賛されるのも頷ける話です。
脱いだだけの体当たりな演技でオスカー受賞したわけとちゃうぞと。
しかし、この映画のタイトル(邦題の方)は、個人的には物凄く納得できない。
マイケルが読んだのは、愛なのか?と…
ハンナの為ではなく、自分の中の罪悪感を埋めるために、朗読したテープを送りつけていただけなんじゃないかと。
ハンナのコンプレックスもプライドも、結局マイケルにとっては単なる偏見にしかすぎない。
でなければ、刑務所で面会した時「何を学んだ?」などという言葉が出てくるはずがない。
ハンナの秘密を唯一知るお前に手紙を送った時点で、刑務所で何を学んだか?などということの答えは出ているはずであるし、ハンナの立場に立ったら、この刑務所で学んだことが、人生におい如何に大きかったことかわかるはずである。
それなのに、「何を学んだ?」って、理解しているようで、実際のところは何も理解していない。
表面だけ見て、真実を読もうとなんかしていない。
結局マイケルは、15歳の時から何も変わっていない。
上辺だけの盛りの付いた犬の如き情事を、勝手に『愛』だと誤解したまま、その情事を繰り広げる為に仕方なく本を朗読していたあの時のままであり、あれだけ読んだホメロスのオデュッセイアの意味すら理解していない自分勝手なだけの愚かな偽善者(坊や)である。
まぁ実際、「あなたは中身のない上辺だけの人間ですよ。」ということを伝える描写は、面会した時のハンナの台詞であったり、後半マイケルが、アウシュビッツに送り込まれたホロコーストの被害者であるユダヤ人女性に、既にハンナにとって意味のないお金を持って会いに行った時に描かれていると思う。
お茶の缶の中い入れられていたお金、当然のことながら、無期懲役を喰らっていたハンナに必要なわけがないし、天国で使えるわけでもない。
そして、ユダヤ人女性にとっても、中身のお金は重要ではないし、子供の頃、缶の中に入れていた宝物にも、大した意味はない。
だけど、缶は大事だから、空っぽの缶は頂いておくわと…
そして、マイケルに、慈善団体にでも何にでも寄付するなりなんなり好きいして下さいと、中身のお金だけ託した。
マイケルが、そのお金を、文盲の支援団体にでも寄付するのかどうかは大した問題ではないですが、結局貴方は、お金という紙切れを寄付するくらいのことで満足できるくらい、薄っぺらな人間なんですよと、ハンナもユダヤ人女性も言っている気がした。
貴方はこの紙切れ程度の心しか持ってない男ですよと。
と同時に、現代社会への痛烈な批判を感じてみたり。
そして結局マイケルは、本当のところは誰とも心を交わしていない。
受け入れても、受け入れられてもいない。
自分の娘にすらも「何処に行くの?」と聞かれて「サプライズさ」と言い、「サプライズ大好き」という娘を尻目に、自分の空虚感を埋めるなり、許しを請うなりする、娘にとっては何の意味もない場所にしか行っておらず、結局自己中心的な考え方で言動を起こしているだけにすぎない。
個人的な解釈ですけれども、愛とは読んで字の如く、心う受け入れるということであって、相手の心を受け入れて支えなくては、それは単なる自己満足にしかすぎないのである。
よって、この邦題『愛を読むひと』は、個人的に却下。
でも待て、『人』じゃなくて『ひと』なのは、支えあっていないという意味があるのかもしれない。
この映画のわからなかった点。
・ハンナの仕事場のバスにマイケルが遊びに行った時激怒した理由。
・マイケルがハンナに監獄で何を学んだか?聞いた理由。なぜ手を握り返してあげなかったか?
・なぜハンナからのメールを返さなかったか?
・監獄から出られることが決まっていたが、その前に自殺したこと理由。