「「それでも世界は美しい」と思わせてくれる映画」ラブリーボーン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
「それでも世界は美しい」と思わせてくれる映画
鑑賞直後はB+と評価したのだが、思い出す度にどんどん好きになってきた作品。
最初に不満点から挙げてしまう。
スージーを失った事で家族の負った傷の深さが、父親以外からは伝わり辛かった点。
最後の現世への介入の仕方だけが露骨過ぎた点。
霊能少女の中途半端な存在感。
以上。
よっしゃ、スッキリしたんで誉めます(笑)。
身も凍るようなサスペンスと、愛する人を失った者達のドラマが見事なバランスで描かれた本作。
相変わらずだが、ピーター・ジャクソン監督は細かな効果音や一瞬のカットの使い方が巧い。
ぬかるみを踏み締める音、
金属を拾う時の耳障りな響き、
自転車が横切る影、
走る追跡者の顔のアップ……
否応無しに緊迫感を煽る演出は抜群で、殺人犯を演じるスタンリー・トゥッチの不気味な演技と相まって、息が詰まりそうなほどの迫力。
そして、現世の出来事にぴったり寄り添った天国の描写。
この映画に登場する天国は、主人公スージーが生前大好きだったものに満ちた世界。同時に、彼女の不安や恐怖も潜む世界だ。
特に後者を描いたシーンが僕の中では印象深く、父親との思い出のボトルシップが次々に沈んでゆく悲痛なシーンには涙が止まらなかった。
この映画の天国を信じるかどうかは少しも重要なことじゃない。
第一、僕は見たことの無いものを否定も肯定も出来ない。
この映画が見せたいのは、自分の愛する人が幸せな場所へと行き着いてほしいと願う心、
苦痛から解放されて、大好きなものに囲まれてどこか遠くで生きていてほしいと願う心なんだと思う。
観終わった後に考えた。
僕の望む天国はどんな場所か。
大切な人達は、死んだらどこへ向かうのか。
あるいは、どこへ向かったのか。
スージーと形は違えど、誰もが自分なりの天国を思い浮かべるはずだ。
あなたにとってのペンギンは何だろう?
あなたのムーア人は誰だ?
あなたと一緒にボトルシップを作ったのは?
この物語以上に悲惨な出来事ばかりの世の中だが、それでも人生はいとおしいものに満ちている。
そう思わせてくれただけでも、この映画には価値がある。
賛否両論あるラストだが、作り手はスージーの無垢な魂を最後まで憎悪や怒りで汚すことなく天国へ送り出したかったのだろう。
殺人犯の迎える結末も、奴には似合いの惨めな結末だと思う。誰の記憶にも残らない、刑務官にすら看取られない、孤独で虚しい末期だ。