「選挙という名のゲーム」スーパー・チューズデー 正義を売った日 キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
選挙という名のゲーム
ジョージ・クルーニーの監督4作目である。「グッドナイト&グッドラック」は希望に満ちあふれた作品だったがこの作品には不穏な空気が漂う。それぞれ当時のアメリカの世相を反映しているのだ。
ライアン・ゴズリング演じるスティーヴンは希望に燃えている。モリス知事がアメリカを変えると信じて、彼を支えるブレーンとなる。敵対候補のチームに誘われても自分の信念を揺るがせず、それを断る。だがそれは嘘だ。モリス知事への忠誠心(劇中でも問われているが)が揺らいだから、会いに行ったのだ。仮にそういうつもりで無くとも、それはモリス陣営へのマイナスイメージとなる。この事件がきっかけでクビにされたスティーヴンはある行動に出る。
ここから映画は急激に面白くなる。ゴズリングは豹変するスティーヴンを見事に演じている。映画の邦題は「正義を売った日」となっているが、スティーヴンは正義を売った訳じゃない。正義のため、大義のために変わったのだ。政界という泥にまみれた世界に少しずつ染まっていく。まさに政治の暗部を明るみに出した瞬間だ。
だが完璧な悪人がいないのもこの映画のミソだ。モリス知事はアメリカを良い方向に変えていくことを信じて疑わない(たとえ不祥事を起こしてもだ)。汚い手を使ってくる相手陣営のスタッフ、予備選の特ダネ欲しさにスティーヴを脅す新聞記者。誰も彼もが自らの信念に基づいて動いているのだ。少なからずアメリカを変えようと。そこにクルーニーの希望が投影されている。
しかしエンディングでピクリとも笑わないスティーヴを見ると不安がぬぐえない。「もう何も信用出来ない」そんな世界に投げかける大きな怒りがここにある。
(2012年4月8日鑑賞)