「柱のきずはおととしの~♪」チェンジリング kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
柱のきずはおととしの~♪
タイトルの“changeling”とは“取替え子”という意味だそうで、「さらった子供の代わりに妖精が置いていく醜い子」という伝説があるらしい。それを身をもって体験するシングルマザーのクリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)。実際に起こった事件だというのだから、彼女の悲痛な思いが胸に突き刺さる。最近香川県で起こった、体外受精において受精卵を取り違えるという医療ミス事件も思い出してしまいます。
時は世界大恐慌前夜の1928年。再現された当時のロサンゼルスの風景が心地よく、クラシックカーをよく集めたもんだと感心するし、バスのシートが木でできていることにも驚かされる。小学校では土曜日が休みだとか、電話交換手がローラースケートを履いていることにも軽く驚いたのですが、子供の身長を柱に刻むという行為に親近感を抱きました。
息子のウォルターが失踪してから5ヶ月後に見つかったと連絡が入り、会いに行ったら別人だったという衝撃。しかも名誉挽回のチャンスだとばかりに、腐敗しきった当時のLAPDは「間違いない」とクリスティンを納得させようとするのだ。なんとも憎たらしいほどのジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)。人違いを主張するクリスティンを黙らせようと精神病院送りにまでしてしまう。
ミステリー中心の映画だとばかり思っていたのに、さすがは御大クリント・イーストウッド。『ミスティック・リバー』以降に見られる、今まで正義とされていたものを疑問視する社会派要素たっぷりの作風は今作でも健在。善良なる市民が権力の前に泣き寝入りせぬよう勇気を与えてくれてるといっても過言ではない。それがジョン・マルコヴィッチ演ずるグリーブレブ牧師であったり、証言してくれる歯科医であったり、息子の学校の教師であったり、精神病院の患者キャロル・デクスター(エイミー・ライアン)であったりするのです。
中盤からは主軸であるはずの息子捜しは影をひそめ、横暴で無秩序な警察に対する闘争がメインとなり、同時に子供ばかりを狙う連続殺人鬼も登場する。警察内にもヤバラ(マイケル・ケリー)という良心的刑事が現れ、最後までクリスティンに付き添ってくれる姿が印象的。注目していたら、いつのまにか右頬に切り傷があったのが気にかかりました。そして、不正に立ち向かうためならと、無報酬で協力する弁護士の活躍も溜飲を下げてくれる。
ただ、法廷モノとして感動していると、その後にエピローグ的なストーリーがまだまだ続くので、涙も乾いてしまいました。決してハッピーエンディングとならない静かな展開はイーストウッド的手法なのかもしれない。余韻を残し、深く心に刻まれるような。
映画ファンとして興味深いことに1934年のアカデミー賞のネタがありました。もしかすると、本作品がオスカー候補となることを見込んでいたのだろうか?残念なことに作品賞にはノミネートされませんでした。そんな中、前半と後半では全く雰囲気が違って見えたアンジーの主演女優賞には期待したい。なにしろ助演女優賞を獲得したのが『17歳のカルテ』。奇しくも精神病院という共通項があるのだから・・・
【2009年2月映画館にて】