「最初から最後まで息がつけなかった」チェンジリング たんぽぽさんの映画レビュー(感想・評価)
最初から最後まで息がつけなかった
全編を通して緊迫感に満ちていた。悪を取り締まる警察という機構がその権力を横暴に振るった場合、どういうことが起こるかを目の当たりにした思いである。裁判における冤罪の恐ろしさと併せて最初から最後まで胸にズシンズシンと響きっぱなしだった。折しもこの映画を観たその日(2020年)、日本では冤罪で十二年服役していた看護助手の無罪が確定した。刑事の誘導尋問によって嘘の自白をして刑が確定されたという経緯を聞くにつけても、この問題は決して過去の事例ではないと思わされた。
ロス警察の腐敗性に対して一般市民の正義に対する意識の高さにも胸が躍った。ただ、その対比があまりにも鮮やかな善玉悪玉の構図になっていて、そこまでわかりやすかったのか、疑問も残る。ハーン弁護士がジョーンズ警部を追及する際の論理の運びにもちょっと首をひねった。問題なのは、体面のためには平気で真実を踏みにじるその体質ではないのか。でも一番不思議だったのは、7年後に親元に戻った少年があまりにも幼かったこと。ウォルターと同年代だとすれば、16歳程度にはなっているはずなのに、小学生にしか見えなかった。もう少し大人びた感じにすれば、事件が起こってからの時の経緯を感じられたのに、と思った。
しかし、それは些細なこと。最後、コリンズ夫人が「希望があります」との言葉を残して歩み去っていく姿はそれら全てを払拭するだけの説得力があった。息子を思う母の愛が全編を覆う、崇高な映画だった。