「取返しのつかない取替え。」チェンジリング ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
取返しのつかない取替え。
こんな胸をえぐられるような、張り裂けてもなおズキズキと
痛むような、辛い作品を観たのも久しぶりだ。。
さすがのイーストウッド卿、まったく無駄のない構成&演出、
隠遁とした重苦しい作品を最後まで淀みなく描ききっている。
予告でも流れているアンジーが流す「涙」のシーン。。
ここだったのか!と思う間もなく、自分の目からも零れ落ちた。
母親ならなおさら、誰がこんな運命を彼女に下したのだろう。
しかし当時のシングルマザー、とはいえ見事な暮らしぶり。
実際のC・コリンズについての詳細と今作の彼女とでは、
やや違うところもあるようだが、女手一つで子供を育てている
という悲壮感は見当たらない。もしもあのままウォルターが
成長していたら、かなりの好青年になっていた可能性が高い。
そしてまだまだ平和?だった住宅街。
子供が一人で留守番も、そう珍しいことではなかったのだろう。
だが猟奇犯そのものは、当時から存在していたことになる…。
しかしなにより、子供を間違えて、そのまま母親に押し付けて、
文句が出たら今度は精神病院へ送る…って、どういうことだ!?
警察の絶対的価値を下げない姿勢が、多くの市民を犠牲にし、
正義だと唱えれば、とたんに逮捕・監禁されるなんておかしい。
当時のロス市警の腐敗ぶりはまったくどうしようもないが、
アンジー演じる母親からすれば、そんなことを叫んではいない。
「私の息子を探してください。」ただそれだけなのだ。
息子だと名乗る子供。のちに判明する犯人。彼らにも親がいる。
最もゾッとしたのは、実際の事件では、犯人の母親も
この事件に関与していたという事実だ。信じられない…。
親が子供を守ることを描こうとする作品は多いが、
結局「誰も守ってくれない」のが真実になってしまうのだろうか。
私がアンジーの立場なら、まず自分の隙を許せず居た堪れない。
でもそんな親や子供を騙し、利用する人間など、もっと許せない。
人間が持つ優しさや、思いやりの心はどこへいってしまったか。
親子の強い絆はどこへいってしまったのか。
どうにも抑えが効かない憤りの果て、今作は見事なエンディングを
用意している。たった一筋の涙に、どれだけの重さを表現させるか、
それを知るイーストウッド卿にしか描けない見事なラストだった。
(まずは親が。そして社会全体で。子供を見守る姿勢をもたねば。)