スター・トレック : インタビュー
5月8日の公開以来、全世界で大ヒットを記録しているJ・J・エイブラムス監督最新作「スター・トレック」が、今週末いよいよ日本公開を迎える。1966年に放映開始されたTVシリーズを換骨奪胎し、全く新しい「スター・トレック」の世界を創造したエイブラムス監督が本作で挑戦したことや成功の秘密を明かしてくれた。新生USSエンタープライズのクルーとなったザッカリー・クイント、カール・アーバンのインタビューとともにお届けする。(取材・文:サトウムツオ)
J・J・エイブラムス監督 インタビュー パート2
「今回のチャレンジは単なる“プリクエル(前日譚)”を作ることではなかった」
──「スター・トレック」に関して言えば、新しいカークとスポック、クリス・パインとザッカリー・クイントをキャスティングしただけで、映画の大成功は約束されたようなものです。とくに、パインは若い頃のマット・デイモンのようで将来も楽しみですね。
「クリスは何でもできてしまうし、とても頭がいいんだけど、バカになることを一切恐れない。若い俳優はとかくカッコつけばかりだけど、彼は何にも恐れることなしにチャレンジしてくれる。それが僕はカッコいいと思うよ」
──ザッカリー・クイントについてはどうです?
「初めて会ったときに、“スポックが入ってきた”と思ったぐらいで、彼が演じるスポックを瞬時に想像できた。いい俳優だし、細い身体のラインも、顔つきも、すべてがスポックだった。その場で契約書にサインしてもらいたいぐらいだった(笑)」
──いくつか、何の説明もなしにアクションになだれ込むシーンがありますね。オープニング近くで、カーク少年がクルマを爆走させますが、なぜそういうシーンを盛り込んだのですか?
「『スター・トレック』にはいろいろなルールがある。でも、これは“自由”の上にのっとって作りたかったんだ。もちろん、往年のTVシリーズや過去10本作られた映画をリスペクトしてはいるがね。ところが、これまでの『スター・トレック』は小さな約束事に縛られている感じがして、映画のプロローグに何か大きな転回点みたいなものが必要だと思ったんだ。あのシーンでカーク少年は古めかしい赤いスポーツカーをぶっ飛ばす。そこではホバークラフトのような未来的なクルマも対比的に登場する。彼がなぜクルマを走らせているのか、直接的には示されていない。父がいないカークは方向性を失っている。彼は大嫌いな義理の父親に育てられているんだけど、その父のクルマをぶっ壊したい衝動に駆られて走らせている。彼の無鉄砲な性格が子どもながらに出ていて、僕は好きなシーンなんだがね」
──ロベルト・オーチー&アレックス・カーツマンという脚本家チームとは、どのように脚本作業を進めたのですか。
「ボブとアレックスとは長いつきあいだからすごくツーカーで、彼らとはひんぱんに話し合って、ストーリーの背景部分などを共有させて書き進めた。僕は『スター・トレック』の大ファンというわけでなく、そこそこのファン。オーチーはとてつもないマニア。エグゼクティブプロデューサーのブライアン・バークなんて『スター・トレック』を一度も見たことがないというレベルだ。そんなあらゆるレベルのファンが集まって、ファンでない人たちにも楽しめるように心がけて、ストーリーを練ったんだ」
──「バットマン・ビギンズ」や「007/カジノ・ロワイヤル」のようなシリーズの序章になるような映画が最近よく作られています。それらはストーリーを作る上で参考になりましたか?
「僕らには影響はなかったが、スタジオ側には大きな影響を与えたかもしれないね(笑)。でも今回のチャレンジは単なる“プリクエル(前日譚)”を作ることではなかった。オリジナルのTVシリーズは40年以上昔の話だが、そんな過去の部分に触れつつ、未来の話をしなければならない。その上で“プリクエル”として成立しなければならないんだからね」
──北米ではIMAXシアターでも上映されてますが、やはりIMAXに興味があったのですか?
「IMAXに関してはずっと関心があって、いつか一緒に仕事をしたいと思っていた。IMAXのスケール感はまさにぴったりだと思ったからね。IMAXシアターでこの映画を見たが、あまりにスクリーンが大きくて、びっくりした。クローズアップにしてもすごい寄り方で、“おいおい、大きすぎだろう?”という思うぐらいにクレイジーな体験ができる。ともかく、現在の映画監督はIMAXからiPodまでありとあらゆるサイズに向けて作らなければならないから大変だよ(笑)」
──オーストラリアのシドニーでワールドプレミアが行われましたが、同じ時刻に地球の裏側のテキサス州オースティンでコアな『スター・トレック』ファンを集めてスニークプレミアを行ったりして、いつもあなたの映画のマーケティングは革新的ですね。
「僕が考えつくアイデアもあるけど、いいアイデアは全部、まわりの人間が考えつく(笑)。レナード・ニモイも参加した米テキサス・オースティンでのプレミアは、プロデューサーのデイモン・リンデロフのアイデアだった。僕も参加したかったけど、シドニーにいたから行けなかったんだ(笑)。あのオースティンのプレミアでは急遽本編が上映されるというサプライズがあったが、リンデロフはそれを1カ月以上も前から仕込んでいた。映画はとっくに完成していたし、なるべく最高のシチュエーションと最高のタイミングでこれを楽しんでもらいたかったから、最高のアイデアだった。サプライズっていつだって興奮させてくれるからね」
──続編は作る予定ですか?
「まだ本当にスタジオと何も話していないんだけど、せっかくエンタープライズの処女航海が成功したんだ。次もぜひ撮りたいと思うよ」