「ディカプリオの指がトンカチで壊された」ワールド・オブ・ライズ k.moriさんの映画レビュー(感想・評価)
ディカプリオの指がトンカチで壊された
ここ何作か、スパイ物の映画を観ている。その中では最もシリアスで知的なスパイ物であった。ディカプリオが軽いイメージを脱したのはいつごろからなのだろう。この作品では重厚な役柄を上手くこなしている。
スパイ物の映画は、007に代表されるように、なにがしかエンターテインメイントの匂いや、分かりやすく言えば、アメリカ万歳的な部分を含んでいるものだが、この作品では、そういう部分はなく、リアリズムと人間ドラマにフォーカスした作りこみがなされている。
正義と悪、という勧善懲悪の構図でアクション的に表現せず、情報戦とその戦場でリアルな現場に生きる人間の気分、心理、感情、あるいはそういう極限の中でしか生まれない、複雑な仲間意識や人間関係を落ち着いた映像で表現していく。こういった作品はアメリカのような国だからこそ、出来うるもので、日本のような国ではなかなか生まれ得ないものであろう。
誰も信じられない、といった過酷な状況下で現地の女性を愛してしまう主人公。はじめは、脚本的にこういう流れはちょっと甘いのではないかと思って観ていたが、結果的にそういった行動もシリアスな人間心理の一部として、クールに流していく展開は、うまいものだと感じた。
作品中、何度も出てくる、無人機による偵察映像が非常に美しいが、あのような高感度の静止型無人偵察機は実在するものなのであろうか。
監督はリドリースコット。アメリカ映画であるが、イギリス人である監督らしい、醒めたインテリジェンスを感じ、作品として、無駄や無理がない。観終わった後、損した気にはならない、価値ある良作である。