「役者だったのはケンコバさんだけ」ヤッターマン 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
役者だったのはケンコバさんだけ
映画は映像作品。だから美術は大事。それはそう思う。
全長5.5メートルのヤッターワンを実際に作ってしまうというのは、相当の気合だということは伝わってくる。
ただ、映画は映像作品であって静止画のカット集ではない。
だからキャストは動くし、話すし、観客に訴えかける。
そうして感動が生まれる。
何を言いたいかというと、本作にはそれらが欠けている、ということ。
ヤッターマン1号の櫻井翔も、ドロンジョの深田恭子も、"演技"しまくっててキャラクターに入り込んでない。
「コスプレした青年とデカ乳娘が何かやってるわ」的なノリで画面を縦横無尽。
見た目だけはビシッとキマッているだけにガッカリ。
役者だったのはケンコバさんだけってのは、あまりにシュールだろう。
また監督が腹をくくってなかったのか、本作の向かう先が作中で微妙にブレているのが見て取れる。
アニメ調で変身シーンや高田玩具店から出動してみたかと思ったら、ヤッターワンにつかまって移動すれば波しぶきをかぶってひどいことになるなど妙な現実感を出してみたり。
全編ギャグなのは分かるけど、微妙にズレのある笑いを持ってくるから観客としては微妙に居心地悪い。
原作のノリがそうだから仕方ないとはいっても、ドロンボー一味の退場が自爆っていうのもいかがなものか。
映画だけ観てると「ヤッターマンいらなくね?」みたいに思ってしまう。
アクションが主体の映画じゃないにせよ、カタルシスに欠ける。ラストもヤッターマンが正義のヒーローって感じでもなかったし。
これでも興行的には成功しているらしいのだけど、それはプロモーションが成功したのであって、映画作品そのものが成功したのかどうかは微妙ではないか。
客寄せとしては男性アイドル、美少女アイドル、巨乳アイドル、コメディ俳優、コメディアンと完璧のキャスティング。
だが胸張って「これはイカした作品でーす!」とはなかなか言いがたい。
ポスターだけ見てると優れた作品に思えるだけに、実際に鑑賞したらガッカリ。
この流れは『デビルマン』や『スチームボーイ』と同じだ。
映画は映像作品であるはずなのに、ポスター(および周辺ツールやプロモ)に力を入れて本作で物足りないとか、やってることはインチキ見世物小屋と大差ない。
いっそのことアイドル映画の路線にしてしまえば、ここまで腹も立たなかったろうに。
アイドルてんこ盛りのキャスティングにしたばっかりに、焦点が定まらずこちらの面でも不完全燃焼。
帯に短したすきに長しだ。
では評価。
キャスティング:3(豪華にやり過ぎて焦点ブレ過ぎ)
ストーリー:3(原作の再現はわかるけど、映画としては微妙)
映像・演出:6(コスチューム等に気合入ってるのは分かる。だが映像としてはイマイチ)
ヒロイズム:3(現場にいるだけでヒーローは務まらない)
アイドル路線:2(櫻井翔? 深田恭子? 福田沙紀? わりとピンボケ)
というわけで総合評価は50点満点中17点。
原作を忠実に再現しても映画にならないという実例を探している人にオススメ。
素直にアイドル映画を鑑賞できない恥ずかしがりやさんにもオススメ。
本編より周辺アイテムを愛でる方が幸せになれると思う。